「世界で最初の広告って、何だと思いますか?」

テレビCMでもありません。
新聞広告でもありません。
もちろん、インターネット広告でもありません。

広告の歴史を調べていくと、たどり着くのはなんと古代エジプトです。

……と言いたいところなのですが、実はここには、ちょっと面白い話があります。

「世界最古の広告」として有名な古代エジプトのパピルス

長い間、「世界最古の広告」として紹介されてきたものがあります。

古代エジプトの都市テーベで見つかったとされるパピルスです。

そこには、逃げ出した奴隷を探すための文章が書かれていた、とされています。

内容は簡単にいうと、

「奴隷のシェムが逃げました。
見つけた人には賞金を出します。
そして、彼を主人のもとへ連れ戻してくれた人には、さらに報酬を出します」

というもの。

ここまでは、現代でいう「迷子のお知らせ」や「人探しの貼り紙」のようにも見えます。

ところが、この文章にはもう一つの目的があったとされていました。

奴隷の主人は布職人のハプ。

そして最後には、

「ハプの店では、あなたの好みに合わせた素晴らしい布を織っています」

というような、自分の商売を宣伝する文章まで入っていた。

つまり、

「人を探しています」

「ついでに、うちの店もよろしく」

という広告だったというわけです。

今の感覚で考えると、なかなかしたたかです。

ところが、この「世界最古の広告」には問題があった

この話は長い間、広告の歴史を紹介する本などで繰り返し紹介されてきました。

ところが、2021年にスペインのアリカンテ大学の研究者Miquel Poveda Salvà氏が、この「ハプのパピルス」について詳しく調査しています。

その研究によると、なんとこの有名なパピルスについて、信頼できる一次資料が確認できないのです。

さらに調査すると、「ハプという織物職人」「逃亡した奴隷シェム」「最高の布を織る店」といった有名な文章も、実際の古代エジプトの資料から確認されたものではないことが指摘されています。

つまり、

「世界最古の広告は古代エジプトのパピルス」

という話自体が、広告史の中で長い間語り継がれてきた“伝説”だった可能性が高いのです。

これは、広告の歴史を調べるうえで、なかなか興味深い話ではないでしょうか。

では、本当の「最初の広告」は?

ここが難しいところです。

そもそも「広告」をどこから広告と呼ぶのかによって、答えが変わってしまいます。

たとえば、

「これ、売ります」

と誰かが人に伝えた瞬間を広告と考えるなら、文字が生まれるより前から広告は存在していた可能性があります。

店の前に商品を置く。

声を出して商品を売る。

自分の店の名前を目立つ場所に掲げる。

目印になる絵やマークを使う。

これらも、広い意味では広告と考えることができます。

つまり、

広告は「広告」というものが発明されてから始まったわけではない

のかもしれません。

「誰かに何かを知ってもらいたい」

「自分の商品を選んでもらいたい」

という気持ちが生まれた瞬間に、広告の原型も生まれた。

そう考えることもできます。

実は「看板」も広告だった

文字を使った広告の歴史を見ても、古代にはさまざまな商業的な表示が存在しました。

古代ローマの都市ポンペイなどからは、壁に描かれた商業広告や政治的なメッセージが発見されています。

店の場所を知らせたり、商品やサービスを宣伝したりするために、文字や絵が使われていました。

今の街にある、

「○○店はこちら」

「○○あります」

「○○がおすすめ!」

という看板の原型は、ずっと昔から存在していたわけです。

広告は、メディアが生まれるたびに姿を変えてきたともいえます。

新聞が生まれると、広告は大きく変わった

そして時代が進み、印刷技術が発達します。

新聞や雑誌が普及すると、広告は「その場所にいる人に見せるもの」から、

「より多くの人に一度に届けるもの」

へと変化していきました。

さらにラジオが登場し、テレビが登場し、インターネットが登場しました。

そして現在では、スマートフォンを通して、一人ひとりに違う広告を届けることまでできます。

古代の商人からすると、まるでSFの世界です。

でも、やっていることの根本は意外と変わっていません。

「知ってもらう」

そして、

「興味を持ってもらう」

さらに、

「買ってもらう」

ということです。

そう考えると、広告の歴史は「人に伝える歴史」なのかもしれない

新聞広告も、雑誌広告も、ラジオCMも、テレビCMも、インターネット広告も。

形式はまったく違います。

しかし、その根っこにあるのは、

「こんな商品があります」

「こんなサービスがあります」

「こんな会社があります」

という情報を、誰かに届けること。

広告の形は、時代とともに大きく変わってきました。

それでも、

「誰かに何かを伝えたい」

という広告の基本は、何千年経っても変わっていないのかもしれません。

そして、もしかすると世界最初の広告は、まだ私たちが知らないだけで、もっと昔に存在していたのかもしれません。

広告の歴史を調べてみると、

「広告って、いつから始まったんだろう?」

という疑問が、

「人は、いつから誰かに何かを伝えたくなったんだろう?」

という、もっと大きな疑問に変わってきます。

今ではスマートフォンを開けば、毎日のように広告が目に入ります。

でも、そのずっと前から人は、

「これ、いいですよ」

と誰かに伝えていた。

そう考えると、広告というものが少し違って見えてきませんか?

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参考資料

・国立国会図書館「レファレンス協同データベース」世界最古の広告は何か
・Miquel Poveda Salvà, “La invención del primer anuncio publicitario de la historia”(Universidad de Alicante)