国際法からみる人権の理論とは?基本から | 国際法と国際政治から読み解く現在

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国際法秩序に於ける人権の理論とはなにか基本的なことを解説していきます。

人権分野で一番重要とされる
多国籍条約に、自由権規約と社会権規約があります。(1966年採択)

どちらも、人民の自決権を保障しているおり、日本も加盟しています。

権力と人権の関係

自由権規約が「権力への自由」社会権規約が「権力による自由」と指摘されています。
つまり、前者が人が産まれながらにもつ自然権であり、後者が経済的、社会的、文化的権利いわゆる社会的諸権利です。西欧諸国は前者が絶対的で強制可能(裁判所に付託する可能性)があるのに対し、後者はそうでないと考えました。

人権規範は、上記のもの以外にも、地域的なもの(米州人権規約、欧州人権規約)や特定的主題のもの(女性差別撤退条約、難民条約は主体の特性に着目している)、またある特定の人権侵害を禁止する条項(奴隷条約、拷問禁止条約)などがあります。


人権保護は、手段から目的、国内管轄事項から国際関心事項に転化してきているといえます。


人権規範の理論

あらゆる多国籍条約や協定はある特定の条項の留保を可能とします。
留保とは→ある国が妥当な根拠をもって宣言をすることで、一部の条項の効果、拘束力を自国に対してなくすこと。

では、自由権規約にあるおうな絶対的な個人の人権を保障した条項をある特定のくにが留保することが可能なのでしょうか?

留保は国際法上、各国が宣言することができます(条約に留保禁止条項がない限り)が、ある国が人権を守りたくないからといって、自国に都合の悪い条項を好き勝手に効果をなくすことができないのではないかとおもいますよね。

自由人権規約委員会の一般的意見には、明示的には留保を禁止する条項はありません。よって留保は他の条約と同じように可能と解釈できますが、
他と異なるのはそれを判断するのは、国家ではなく、自由権規約委員会であるとしました。(一般的には、あらゆる権利義務は国家間の相互主義に委ねられている)
これは、主権国家を基本とする国際社会のシステムに中央集権的要素を導入しようとしている動きであるためイギリス、アメリカ、フランスはこれに反対していますが、これまでに、スイスやトリニダード・トバゴによる留保が無効と裁判で判決される事例があります。
しかし、これは加盟国の脱退(トリニダード・トバゴが脱退)という新たな問題を生むことも事実です。この事実によって、自由権規約委員会では脱退条項がないにもかかわらず、当規約が主要な人権条項を構成していることを理由に、自らの審査に対する審査の同意を加盟国が撤回できないことをの表明している。


適用範囲

国際人権規範の義務を、国家は自国の管轄権が有する範囲で負います。

自由権規約
2条
1 この規約の各締約国は、その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に対し、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意 見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束す る。

その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるの、「かつ」は和集合的なのか積集合てきなのかで解釈が異なりますが通説では、前者のその領域内にあり、また、その管轄の下とされます。
つまり、人権規約の域外適用を認めています。


欧州事件条約には、締約国の義務は域外にも及ぶとされていますが(ロイジドゥ事件1995)、
NATOの空爆が人権侵害とされた、バンコヴィッチ事件では管轄権限が領域的であり、締約国間の法的空間以外では適用できないことを理由に申し立てを否定しました。


国家や国家に所属する個人は領域的にどの範囲まで人権を保障する必要があるでしょうか。

国内法秩序との関係

人権は国内にいる個人の権利に直接関与するため、国際法と国内法の関係が問題になります。

国際法が国内への反映が実現される方式には、変形方式または一般的受容方式があります。
(また適用方法には、直接適用と国際法適合解釈(間接適用)とがあります。)

日本は、国際法規約の形をそのまま変えずに国内法として適用する一般的受容方式をとっており、

憲法優位説(↔条約優位説)が通説でありますが、国内法律との関係では、

日本国憲法の
98条2項
日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。


とあるように、国際法は国内の法律に優越すると解釈されます。


しかし、刑事訴訟法、民事訴訟法の解釈で、国際人権規約を理由とする上告が認められていません (刑事訴訟法405-406条、民事訴訟法312,318条)


人権規範の履行確保

1. 人権規範の非相互的な性格

人権規範は国家間の相互的な関係に委ねることができません。
例えば、ある国が他国の国民の人権侵害を犯さないような行動をとることで自国民に人権侵害が生じた場合は、両国ともの規範の履行が達成しないことになります。

また、条約違反に対して、条約を停止することも、本来の人権保護の目的から程遠くなるため禁止されています。

人権規範には国際法一般の枠組みとは異なるシステムが機能しているといえます。

2. 包括的な法過程による位置づけ

履行のための努力は司法的な側面に限定されず、立法、行政など役割によるものも多いです。
例えば、日本では裁判そのもののは既存にある憲法において人権侵害があった場合に判断を下す役割しか果たさず、人権に関する法的枠組みを新しく作るなどの政治的役割は、裁判における問題提起や世論を通じた立法期間や行政機関に委ねています。


また、国家機関のみでなく、地方自治体や私企業の社会的責任があり、NGOの活動も人権規範の監視に重要な役割を果たします。そして、諸個人も人権を尊重保護すべき主体となります。

人権の制約と制限事由(制限をする理由、根拠)

日本国憲法の解釈でもなされるような諸個人の人権を保護するための、人権の制限は、国際人権法一般ではどのようになされるのでしょうか。

世界人権規約にみられる一般規定による人権の制限
義務としての規定
29条
1. すべて人は、その人格の自由かつ完全な発展 がその中にあつてのみ可能である社会に対し て義務を負う。



権利行使の制限の規定
29条
2. すべて人は、自己の権利及び自由を行使する に当つては、 他人の権利及び自由の正当な承 認及び尊重を保障すること並びに民主的社会 における道徳、 公の秩序及び一般の福祉の正 当な要求を満たすことをもつぱら目的として 法律によつて定められた制限にのみ服する



自由権規約にみられる個別的規定
18条
3 宗教又は信念を表明する自由については、法律で定める制限であって公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を 保護するために必要なもののみを課することができる。
社会権規約の一般的な事由による一般的な制限
4条
この規約の締約国は、この規約に合致するも のとして国により確保される権利の享受に関 し、 その権利の性質と両立しており、かつ、民 主的社会における一般的福祉を増進することを 目的としている場合に限り、 法律で定める制限 のみをその権利に課することができることを認 める。


パレスチナの壁事件では、壁の構築がパレスチナ人の社会的諸権利の制限になっている、つまり12じょう3校の移動、移住および出国の自由を阻むという申し出に対し、勧告的意見では、社会人権規約の漸進的性格を持ち、自由の制限が条件が満たされていないと判断されました。

また、自由権規約は緊急的性格を持ち、制限事由も列挙がなされているため、表現の自由(同19条)と戦争宣言や増悪唱道の禁止がぶつかり合った場合の人権制限については厳格であると言えます。


日本国憲法の人権の制限の規定
第13条
すべて国民は、個人として尊重され る。生命、自由及び幸福追求に対する国民の 権利については、公共の福祉に反しない限 り、 立法その他の国政の上で、最大の尊重を 必要とします。

これは、一般的に曖昧であり、制限事由(制限をする理由、根拠)を明示的にしている自由権規約が規範的に優れていると言えます。


よって、日本国憲法上、国際人権規範の人権侵害がなされる可能性があります。