
スタートはスポーツシューズ
1953年、現在のイタリア靴製造で重要な町、ミラノ市郊外のパラビアーゴにフラテッリ ロセッティ(FRATELLI ROSSETTI)は設立されました。創業者はレンツォ・ロセッティ(Renzo Rossetti)。父親は靴修理職人でした。
いい靴を作るために優秀な職人を雇うことは、昔の職人技を守ることにもなりました。また、レンツォ・ロセッティは、自分が満足できるクォリティは手作りでしか実現できないと確信します。
'60~'70年代にかけて、世界の政治・社会・スタイルが変わりつつあり、男性はワードローブの中にファッション性を求めるようになりました。しかし、靴は保守的でした。ウエアがファッショナブルに変わっているのに、靴に時代を感じさせる要素は見当たりません。そこで、ロセッティは靴の伝統を覆すことにしたのです。ちょうど、イタリアンファッションが世界中で注目されるようになった時期です(今でこそイタリアはファッションで有名ですが、'60年以前にイタリアンファッションが注目され主流になったことはありません)。世の中が享楽的な価値観を認めだしたとき、イタリアンファッションは最適なものとなったのです。

アイスホッケーと
フィギュアスケート用の
プロトタイプ。1950年代は
『Yankee』ブランドで
スポーツシューズも
作っていました。

右は1955年のポインテッドトゥ。
左は1958年のサテン製
イブニングシューズ。
どちらもブランドは『Yankee』。
革新的な靴
ひも靴のオックスフォードが一般的な靴の形状であった時代に、フラテッリ ロセッティは積極的にモカシン(リアルモカシンではなくスリッポン)を生産します。そして、このモカシンをよりソフトなはき心地にするために、革ではなくキャンバスのライニングにした「ヨット(Yacht)」をデザインしました。このヨットは、レンツォ・ロセッティがクラシックシューズから脱皮を果たした記念すべきシリーズです。そして、ソックスなしでもはける靴として大ヒットしました。「素足に靴」はイタリアを代表するコーディネートですが、元祖はフラテッリ ロセッティだったのかもしれません。
この夏の靴「ヨット」に対し、冬の靴「アンクルブーツ」もいち早く誕生させました。当時は靴に季節感はなかったので、フラテッリ ロセッティの戦略は大成功を収めたのです。
また、手袋でしか使用されていなかったペッカリー素材の靴は大変な評判となりました。ダチョウ・ゾウ・ヘビ・トカゲなどの変わった素材を様々な染料で染めたり、あるいはさらにアンティーク加工も行ったりと、素材の研究にも熱心でした。

大ヒットした
ペッカリーのモカシン(スリッポン)。

最近多く目にするムラ染めを
すでに'60年代に行っていました。

スクエアトゥには
真鍮製の飾りが
付けられています。
1967年。
同業他社のコンサルティングとファッションブランドとのコラボレーション
レンツォ・ロセッティは革新的な考えの持ち主でした。独立した存在でありながらも、他の会社とのコラボレーションを数多くしています。
'60年代には英国のチャーチ(Church)のコンサルティングをしました。以後、ピエール・カルダン、ジョルジオ アルマーニ、ラルフ ローレン、ビル・ブラス、イヴ・サンローラン、カール・ラガーフェルド、エルメスなど、数多くのファッションブランドとコラボレーションしています。
トップデザイナーと手を組んだことはフラテッリ ロセッティにとってとても有意義なものとなりました。ファッションショーのために靴を提供するのではなく、当時の「スタイル」をモダンな製品として表現することができたのです。

1972年に
ジョルジオ・アルマーニが
デザインしたヨットシューズ。
100%イタリア製
フラテッリ ロセッティ社の靴は100%イタリア製です。素材のレザーも90%以上がイタリア製。取引量が大きいので、イタリア中の最高級の材質がフラテッリ ロセッティに集まります。その中から良いレザーの良い部分のみを厳選して使用しているのです。
裁断・縫製(ハンドソーンではありません)・ブローグは職人が手作業で行います。どの靴も1足仕上げるのに工程は150以上、最低48時間を要します。
はき心地の良さは、ブランドのスタートがスポーツシューズだったということも影響しているでしょう。50年以上の経験がありますが、「伝統」にこだわることはしません。靴はファッションアイテムです。現在のトレンドを反映したデザインであるべきです。莫大な数のラストを使い、常に素材・色・形・はき心地を研究しています。最高の材料を使用し伝統的手法で仕上げたモダンな靴。これがフラテッリ ロセッティなのです。

1973年製のコンビシューズ。
ヒールは少々高めです。

コンビのパンプス。
1980年。

’90年代にはレザー製の
ジャケット・コート・
ベルト・バッグなどを
生産するようになりましたが、
今でもメインアイテムは
靴です。

全面にブランド名をあしらった
'40年代スタイルのサンダル。
2001年。

ナッパレザーを使用した
スクエアトゥのブーツ。
2002年。

2005年の夏ものとして発売された
スリッポン。両サイドの一部が
切り抜かれています。