(前回のつづき)
父に連れられて、丘のような感じの山を登って行くと崖の様な所が見えてくる。ここが黒曜石の採掘現場である。崖に見えたのは、山の斜面を削り進めた為で、崖ではなかった。
カッコーン、カッコーンと何かを叩き割るかのような音が響き、何人もの男たちの談笑の声も聞こえる。スサノオはこの採掘現場の入り口に着いた時から、屈強な男たちが仕事する場所の圧倒感にビビり始めていた。
「兄貴ーハヤの旦那が来たー!」
スサノオと父の姿を見つけた者がさらに奥で作業をしている者に大声で伝えている。
父はさらに奥へと進んでいく。
スサノオは、想像通り屈強な男達の目の前で足がすくんでいた。
「よー、ボウズ。よく来たなぁ。」
「お前、ハヤん所の息子かぁ。」
「へぇー、旦那の。」
「今、いくつになった?」
「まだまだちいせぇなぁ。いっぱい食えよ。」
スサノオを取り囲み、口々に囃し立てる男達。スサノオはビビり過ぎていて、何も言い出せないでいた。
「おい!おっさんが子供囲んで何、いじめてんだ!」
この声がしたとたん、スサノオの前が開いた。顔を上げると、男達の向こう側にまだ若いと見える一人の男がこちらに向かってきている。
「若。」
一人の男がそう呼んだ。若い男の後ろから父が一緒に戻って来る。
「ハヤさん、あの子?…へー。まだ可愛いねー。」
雰囲気が、先ほど狩りの途中に出会ったミナと似ていた。だが、ミナと違ってこの男は屈強と表現するのが正しい。近付けば近付くほどその存在感に圧倒される。
「ハヤさん、もう仕事教えんの?可哀想に…。ボウズはいくつになった?」
とスサノオに問いかけてきたが、圧倒されたままのスサノオには答えられない。
「あっははは、若にビビって答えられませんぜ!」
周りの男達は皆大笑いしている。
「恐がらせたか。悪いな…俺は、弟と違ってこうだからなぁ~。スサノオ、俺がミカ。この辺りの採掘現場の頭をしている。よろしくな。」
と、さらに近付いてきてスサノオの顔にグッと自分の顔を寄せて来た。その屈託のないと云うか、満面の笑顔は、ミナによく似ていた。だからか自然と恐くはなかった。
「よし、スサノオ。俺についてこい、仕事見せてやる。」
と現場に向かおうとすると、周りの男達がさらに囃し立てる。
「若~、あんたの持ち場に子供連れてっちゃあダメだよ。」
「お頭のは、ダメな手本だぜ。」
「最初から、若の見せたらヤル気なくなるぜ。」
「ハヤ、若に任せちゃダメになるぞ!」
ミカの足が止まり…
「うるせえーんだよ!」
男達がみんな笑っていた。
いつの間にかスサノオの隣に父が寄り添っている。
「楽しそうだろ。でもな、採掘現場は危険でもある。仕事となると、皆真剣だ。お前は今10歳だ。お頭は7つの時からここで採掘している。だから、早くはない。ここでは、お前の頑張り次第だ。」
スサノオはもう一人、尊敬して目標とする男を見つけた。
ミカとは、建御雷之男神。後に出雲の民と共に西へ向かい、最終的に長崎での貿易拠点の警備責任者となる。
スサノオは、現在で云う所の和田峠での黒曜石採掘従事する事になる。ミカに気に入られる事によって、運命は少しずつ回避不可能な方向に動き出していく。
そして5年後…
スサノオは15歳になっていた。
この時代、15ともなれば立派な青年である。父譲りの屈強な才能。ミカの無茶振りとも云える無理矢理な仕事もこなすエース格へ育っていった。
黒曜石の採掘現場には、最近職人達の態度が皆そわそわしている。
ミカがスサノオに問いかける。
「スサノオ、ちゃんとトレーニングしてるか?」
スサノオには、何のトレーニングの事なのか分からない。仕事の事だろうか?だとしたら、何もしていない…。父にも特に何も言われていないし…。ミカが聞いてくるぐらいだから、重要な事なのでは?と考えてしまう。
「さてはしてないなぁ~。出ないのか?」
出る?出ない?とは、何?
「出ないって、何がですか?」
周りのいた男達もこの会話に気づく。
「お前~、親父に聞いてないのかー!」
「スサー、知らんのかー」
「採掘やる男なら、みんな出るぞ。」
ミカは少し黙っていた。
「……ハヤに聞かんとな。勝手に息子出してはまずいだろうからな。」
そしてスサノオは、以前ミナと出会った所で行われる、相撲や弓技、狩猟の競技会である。
そこは御射山と呼ばれ、日の巫女が住む山の尾根の上から一望出来る所にある。
この競技会のチャンピオンは、相撲がミカ、弓技が出雲の民のシロ、狩猟がミナである。
相撲と言うと大相撲を想像してしまうが、この時の相撲は総合格闘技と言ったほうが近いが、勝負を決めるというよりは技と力の比べ合いと言った方が正しい。弓技は文字通り弓道と言って良い。この弓技の種目に何処まで遠くまで矢を飛ばす事が出来るかという種目もあった。狩猟には、現在の流鏑馬の種目も存在した。当然、鹿を競技エリアに放し仕留める種目もある。鹿狩りに関しては競技者が使う道具の制限はないが、道具の数と種類は一つに限られる。弓矢を使う場合の矢の本数も決められていた。
この当時に流鏑馬や狩猟で騎乗する馬は存在していない。犬と狼の祖先にあたる小型の馬(ポニー)位の大きさのある古代種の犬に股がったり、追わせていた。ここでは大犬と呼んでいる。
ミカとミナは共に種目別のチャンピオンである。毎日、黒曜石採掘の現場で鍛え上げてはいる。それなりに自分の身体の力に自信はあるが…御射山での競技会でどうなのだろうか?と考えるとドキドキするのである。
(つづく)
次回、西の異変と御射山の決戦