ある時、黒曜石の採掘現場に見知らぬ感じの人間が三人、何かから逃げて来た所をミカ達に保護された事があった。ずっと西の方から旅をしてきた最中に、何者か分からない集団に襲撃され、海岸線を辿るのを止め、山の中に入って来たと云うのである。十数人で旅をしていたが、途中何度も逃げ、追い付かれして仲間とは散り散りになってしまったと…。そのうち何人かは襲ってきた集団に殺された、とも。
散り散りになった仲間を探したいと…協力を要請されたミカは、巫女の占術の結果と諏訪と出雲の民の会議にこの議案をかけた。巫女は協力に反対したが、出雲は賛成した。諏訪としては賛成だが、巫女が反対していることに遠慮して賛成とは言いきれなかった。
出雲と諏訪の民の経験豊富な者を選び、とりあえず救援部隊を出す事になる。
出雲の民の新たなリーダーとして期待されているナムチを主軸に30人ぼどが諏訪を出発した。スサノオの父のハヤも選抜され、同行する事になった。
出発する前日、スサノオは父に呼ばれ生まれて初めてかも知れない親子二人っきりで夜空を見上げた。
「ナムチ様にお願いされたから、西へ行ってくる。お前には、家の事を頼みたい。正直、ミカ様もミナ様も今回の件は反対の立場だ。関わらない方が良いと考えておる。わしは…よく判らん。だが、困っている人を助けないで無視するのもどうかと思っておる。だから、ナムチ様に従って行く。お前はどう思うとるか解らんが、お前はお前の考えを持って行動して構わん。もう、15だ。ミカ様もお前を認めてくれていよう。わしはもう心配はしていない。後はしっかりやれ。」
スサノオは静かに頷いた。
父は、もう諏訪に帰って来ないような気がしていたが、そんな事を聞けないし言えるはずがない。
「お前、御射山の競技会に出るか?頑張れよ。お前の相撲を応援したかったな。」
涙が出そうだ、スサノオはすかさず空を見上げてごまかして取り繕った。
「頑張るよ。ミカ様より強くなってみせるよ。」
父が泣いているのがなんとなくわかる…。
スサノオは、この時最強になることを誓った。
翌日、ナムチ率いる救援部隊が諏訪を出発して行った。スサノオは見送りなどせず、御射山の競技会に向け一人、トレーニングに励んでいた。
「スサ。親父を送らんのか?」
ミカも見送りせず、スサノオの所に顔を出してきた。
「そんなヒマないんで。僕は、ミカ様に勝たなければならないので。」
ミカはその言葉を聞いてニヤリとした。
「へー、俺に。」
「父に約束したんで。」
「それはまた、親孝行な。」
「ミカ様は、目標なんで!」
「じゃあ、そう簡単に勝たしてたまるか。」
ミカもスサノオと並んでトレーニングを始めた。ミカは、息子は十分立派になりましたよ、この誇りに出来る息子の姿を必ず見に帰って来て下さい。と祈るのだった。
数週間が経った…。
御射山の競技会が迫っている。
黒曜石の採掘現場は、仕事になる訳がなく、皆が採掘現場で身体を鍛えている。
採掘現場の男達は相撲の競技に出る者ばかりだ。練習とばかりにぶつかり合っている。御射山では新人となるスサノオに期待がかかる。
「お頭、スサの坊やがずいぶんやれるようになりましたぜ。」
「そうなんだよ。なにせ目標は俺に勝つ事だからな。」
ミカがニヤニヤしながら答えている。
「お頭の最強の座も危ういですかねぇ。」
「楽しいねぇ。」
若い好敵手の登場に心が踊るミカである。
「大変です!ミカ様!」
数週間前にナムチに従って諏訪を出た一人が血相を変えて現れた。
「どうした!何があった?」
採掘現場の男達が全員集まる。
「海の向こうからやって来た奴等が急に襲ってきたんですよ!ナムチ様と別れ別れになってしまいまして、ハヤの旦那に俺は…」
その場の男達の顔が青ざめていく…。
「ハヤの旦那は判ってた。この件に手を出しちゃいけないって。でも、俺を逃がすために…」
ミカの表情が急にこわばる。
「ハヤがやられたのか!」
「いや、わかんねぇです。俺は、必死に逃げて来たんで…。」
男達の動揺は隠せるどころか、全員に伝染し拡大していった。
御射山の競技会が2日後に迫っていたこの時、諏訪では長老達と各リーダーが集まり、対応を協議している中…
「西へ行くのは反対だったが、こうなっては仕方がない。私が行く。」
立ち上がり、こう言い出したのは弟のミナだった。
この発言には協議の場にいた者全員が驚きに包まれた。普段のミナが自分からこういう事は言わないと思われていたからだ。
ミカが即座にミナを抑えるように口を挟む。
「お前が行くな。お前は諏訪に居ろ。」
「何故だ兄貴、大犬の騎馬の集団で行けば、数日とかからない。早くスサの親父を助けに行かないと!」
「だから、お前は行くな。」
「何故だ!一刻も早く行かないと!」
「こういう時は、必ず巫女様の判断も仰ぐ。」
ミカの言葉に長老をはじめ他のリーダー達が納得していた。
「それにな、ハヤは俺の大事な友人だ。助けに行くのは、俺が行く。」
「兄貴こそ、諏訪に留まってくれ!」
このめったに喧嘩さえしない兄弟の喧嘩が始まりそうになった時…長老の一人が口を開いた。
「ミカ、ミナ。ここで争うのは止めなさい。巫女様の判断を明日仰ぐ事にしよう。もし、救援を出すならどちらがいいかもお聞きしようではないか。巫女様の言葉が聞けないなら、仕方がないが…。」
二人はその言葉に静まるしか無かった。
(つづく)
次回、御射山決戦の勝者