10倍ジャムを買ってもらうには
同じような実験は数多く行われていると思います。
行動科学だとか、行動心理だとか、そうしたことに部類される実験です。
スーパーにやってきた買い物客にジャムを試食してもらいます。
第一の実験群には6種類を試食してもらい、第二の実験群には24種類を試食してもらう。
さて、どちらの群がジャムを買う確率が高いでしょう。
この実験では6種類を試食した群が24種類試食した群よりも10倍ジャムを買ったというのが結果です。
人は多くの選択肢があればいいわけではないということでしょう。
とまあ、結構知られた実験ですが、全く同じ実験で色違いのシャツというのがあったように思います。
ユニクロに置かれた「こりゃ一体何種類か!」という色のバリエーションを見ると、それだけの種類を作ることが売上の最大化に寄与しているのかどうか知りたくなるのは私だけではないと思います。
マンションを買う方に「購入までに何件の現物を見ましたか?」という問いをしますとおよそ5~6件という答えがメジャーです。
これだけ情報が溢れる時代ですから、選択肢は無数だろうに、実際に見た現物は10にも満たない。
一般的にライフタイムにおいてそう何回もないはずの家選びがわずか5~6件でいいのかと感じる人もいるかもしれません。
ところが、さきほどのジャムの話ではありませんが、実際に勝っている人は片手に余るかどうかという絞り込まれた選択肢から家を選んでいるというわけです。
すこし、ずれますが、人の満足追求についての実験というのがあります。これは、私の昔の仕事に絡みますが、転職に対してすごく要求度の高い群とほどほどの要求度の群に区分します。
そして、その後をずっと追跡するわけです。
その結果、転職に対して要求度が高い群(つまりポジションやら、勤務形態やらなんやらについて妥協しない人たち)のほうがほどほどの要求度の群(つまり、そこまでガタガタと条件について言いませんという人たち)よりも、20%も高いサラリーを得たそうです。
ところが、その後さらに追跡を続けると、転職に対して要求度が高かった群はほどほどの要求度だった群よりも「就業満足度」は著しく低いという結果が出たそうです。
行動科学から哲学にすっ飛ぶと、どうやら人はほどほどの欲求度で行動すべきだということになるかもしれません。
さきほどの家選びでも、手に余るほどの件数を検討対象にしても、結局、購入にはつながらないということでしょう。
家選びのゴールは購入ですから、この意味では、多くを望んでたくさん見ても目的を達成するわけではないということなのです。