鍋 | 丸の内で働く社長のフロク Powered by アメブロ

昨日は鍋であった。
遅い新年会という建付けで集まった。


早めに到着し一人で生ビールを飲みつつ「下流の宴」(林真理子)の文庫本を読む。
ほどなく、一人目が到着し、挨拶もほどほどに「新作のラフ」を手渡した。


そもそもこの集まりが、小説を書くきっかけである。
去年の年始、勢いで書いてみるか! となり、その後、飲み会の場でプロットを共有し「いいじゃない」と盛り上がったのだ。


それから約1年。
飲み会で共有した「奥さまはCEO」構想が間もなく本になろうとしている。
ただ書き手本人としては、これは既に終わった話であり、次作の構想を共有したいという欲求から、この遅い新年会を設営したのだ。


一人目の男(S)が約1万文字の「新作ラフ」を読んでいる。
雑な作りだということは認識しているが、そこそこに描きたいことは理解してもらえるはずだ。
さすが読書家だけに、どんどんページを繰っていく。
反応は見えない。いいだろう。Sという男は簡単に感想など述べないタイプだ。
おそらく、他の二人がそろってから何か言い始めるはずだ。


40過ぎの男が(一人は50近い)黙ってビールを飲みながら、残る二人の登場を待つ。
ほどなく、二人目の男(K)が現れた。
KとSは久しぶりの再会らしく、近況について交歓しあっている。
それを遮って、Kに「ラフ」を渡した。


Kも心得たもので、さっそくそれを読み始める。
この男も読むのが早い。本当に読んでるのか? 一人目の男(S)もそうだが、真剣に読めよと言いたくなる。手間暇をかけた手料理を1分で平らげられた主婦の心境がよくわかる。


「遅れてごめん」
言いながら三人目(T)が現れた。
これでようやく「ラフ」の正当な評価が可能になるというものだ。
勝手にビールをオーダーし、早く追いつけとばかりに「ラフ」を手渡した。


「やっぱ、冒頭のインパクトが伝わらないですよね」
Sが口火を切る。
あろうことか、作者が自信を持って打ち出した冒頭部分の批判である。
ハリウッド映画を意識し、ドアタマに衝撃的なシーンを持ってきた。
読者が驚くこと間違いなしなのに、いきなりダメ出しか?


「映画やってる時にも、いつも言ってたんですけどね……やっぱインパクトは受け手側の共感がないと、インパクトにならないんですよねぇ」
Sは過去映画の仕事にも携わっていた。
共感がないと売れないんっすよなどと、実際売れなかった映画のタイトルを口にする。
確かに、アレは売れなかった……でも、それとこの「ラフ」が同じか?


「っていうかさ、やっぱ鎌田さんの書く文章は面白いよ」
Kは笑顔になると目が細くなる。その細い目を虚ろに見ながら、言葉の意味を咀嚼する。
文章がうまい? 小学生の作文でもあるまいし、何が文章がうまいだっ! こっちはそんなことを聞いているんじゃない。
「そうそう、鎌田さんの文章は面白いですよ」
そうそう? Sの相槌には驚くしかなかった。こっちにとっては文章がうまいなど誉められたことにならんのだ。
そして更なる衝撃発言にオレは愕然とした。


「つまりさ、鎌田さんはさ、『巨人の星』で言えば、梶原一騎じゃなくて川崎のぼるだね」
はあ? どう考えても梶原一騎だろ、オレは……
暗にオレの創造性を否定したKは大会社の重役であり、オレに書くことを勧めた張本人である。
それが、なんだっ! 創造性に疑いのある人間に小説書けとかケシカケたってのか?
っていうか、その男が書いた小説が本になろうとしてんだぞっ!


「そうそう、鎌田さんは原作者タイプじゃなくて上手に絵を描く方ですね」
そうそう? Sの相槌には呆れるしかなかった。何が、そうそうだっ! しかも、あれだけインパクトのある冒頭シーンを再び非難した。


二人して他人の創造性を否定しやがって……そんなわけねえだろっと押し返すとSが言う。
「いや、たとえばですね。今日のこの飲みの場の3時間を鎌田さんが描いたら間違いなく面白いですよ。それが、鎌田さんの能力ですよ」
はあ? なんじゃそれは? それじゃ単なるブログじゃねえかよ。
「そうそう、ブログです。鎌田さんのブログは面白いですよね」
Sがニコニコと屈託のない笑みを浮かべている。ったく何がブログだよ……


「川崎のぼるとか言われっから、おもしろくないんじゃない? 三谷幸喜って言われりゃ納得でしょ?」
三人目の男(T)がようやく追いついた。見れば、オレの原稿が狭いベンチシートの上で折れ曲がって打ち捨てられている。
ちゃんと読んだのか怪しいが、まあ、確かに三谷幸喜なら多少納得できるから不思議だ。


「だからさ、鎌田さん、たとえば忠臣蔵とか書いたら?」
忠臣蔵? しかも現代版ってどうやれってんだよ? てか、そんなの面白いのかよ?
往年の社長シリーズかっつうの!
「いや、絶対面白いよ。鎌田さんが書いたら面白いから」
どいつもこいつも勝手なことを……ハリウッド映画の演出で衝撃を与え、父子愛を下敷きにしながら、トリッキーな遺産相続と社内抗争を交えた一大巨編の評価はどうなるのだ?
いいアイデアのはずだろっ! 面白いじゃないか、忠臣蔵現代版なんかより!


「だからさ、やってよ。忠臣蔵」
いいさ、わかったよ。ブログ書くよ。こうしてブログ書けばいいんだろ?
書いたよ。こうやって書いてみたよ。おもしろいかこれが?
何なら忠臣蔵、ブログで書いてやるー