人間何が怖いといって、「慣れ」が怖いですね。
最近、読んだ本で何がお勧めかといわれたら、迷わず「幸せはいつもちょっと先にある ~期待と妄想の心理学」(早川書房/ダニエル・ギルバート著)を選びますが…
- ダニエル・ギルバート, 熊谷 淳子
- 幸せはいつもちょっと先にある―期待と妄想の心理学
その中に「馴化」(じゅんか)という言葉が出てきます。つまり、慣れきってしまって、本来の効用を生み出さなくなった状態を指しているようです。
作者は心理学的な「馴化」とは、経済学的に言えば「経済的効用の逓減」ということができるといっています。
つまり、目新しいものには鋭く反応を示すものの、それに慣れてくると反応はだんだん鈍くなるわけです。
インテリジェンスが丸の内ビルディングに入ったのは、今から6年ほど前ですが、その時期の丸の内は誰にとっても大変に新鮮で、街全体に活気がありました。
なんてことはないレストランでも、予約がいつも一杯で、なんてことはないショップでも結構売れ行きがよかった。
ところが、今となっては、丸の内ビルディングのレストランで「満杯で滅多に入れない」という店は少ないわけで、世の中が丸ビルに慣れてしまったために、”経済的効用”が減少してしまったわけです。
誰でも経験のあることですが、たとえば新車を買った当初は、「絶対に車内でタバコは吸わない(吸わせない)」などと考えているのに、半年もすると、経済的効用が逓減して、何のためらいもなくタバコを吸ったりするわけです。
仕事においても、慣れる前は緊張程度も高く、ぎこちないかもしれないけれども、手順通り間違いが起きないように慎重に行動したりします。
ところが、徐々に熟練程度が増して、手早く仕事を進められるようになると、(つまり、慣れてくると)、必ずしも基本通りには実行しなくなって、事故を起こしたりする。
更には、馴化によって、「この仕事はつまらない」などと言い始めたりするわけです。
やりたい仕事のはずだったのに(!)です…
そもそも仕事であれば、慣れて慣れて慣れて、慣れきってしまっても、そこに新鮮さを見出そうとしなければ駄目なんだと思います。
「慣れた」という当たり前の状態を受け入れてしまった段階で、先がない。
もちろん、何であっても”馴化”は避けられないわけで、それをわかった上で、”馴化”して刺激がなくなってからが勝負(!)くらいに思っていたほうがよいように思いもいます。