流行のテラテーメント
セラテーメントあるいはテラテーメントが世界的に広まりつつある。
(ここではテラテーメントと表記する)
Theratainment(テラテーメント)とはTherapy(テラピー)+Entertainment(エンターテイメント)の造語であり発祥は定かではない。
この手の造語にエデュテーメントがあるが、これはご存知の通りEducation+Entertainmentであり、遊びながら学ぶソフト、サービス、施設、コンテンツなどを指している。
テラテーメントとは遊びながら癒される(遊びを通じて精神的な治療活動に寄与する)サービスやコンテンツを指し、ストレスの蔓延する社会において日常から楽しみながらストレスを克服することを目指す活動だ。
「ペットで癒される」ということが言われて久しいが、動物テラピーもテラテーメントの一種と位置付けてよい。
動物と共に戯れることを通じて心理的な癒しを受けるというテラテーメントにおいては比較的プリミティブな部類に入るだろう。
また、インプロと呼ばれる即興劇もテラテーメントと考えられている。これは、適当な設定に基づいて、シナリオなしで演じ手が全て即興で劇を進行するというもの。こうした自由な発想を開放的にやり取りすることや日常を忘れ一時的に何者かを演じることでテラピー効果を生み出すと考えられている。
インプロについては、それを観劇することでも擬似的に即興劇を演じることができる。観劇を通じて演じ手に感情移入することによって、十分なテラピー効果が得られるという研究結果もある。
最近のテラテーメントのトレンドは、「現代人のストレスは激しさを増すばかりであり、もはや完全に克服することはできない」という前提に立っている。
つまり、いかに日常的に上手にストレスと付き合っていくかということを前向きに考えるアプローチが主流だ。
実際、日本社会の(とりわけビジネス社会の)神経質ぶりたるや凄まじいものがある。
(※この社会現象を研究者たちは「A型社会」と呼ぶ。「A型社会」とは血液型A型の神経質な気質から由来している。「A型社会」については、いずれ機会があれば詳述したい。)
こうした熾烈きわまる、まさに神経が参ってしまう状態を楽しみながら軽減しようというプログラムが人気となっている。
代表例は「本音セッション」だ。
そもそも現代ビジネス社会は、本音だけで生きていくことなど2000%無理といえる。仮に全て本音だけでやっていこうなどと甘い考えでビジネスに臨めば、荒波に飲み込まれて藻屑となるだけだ。そうした本音などという戯言を忘れて生きていかなければならないことこそが「A型社会」の本質とも言える。
そうした本音禁物のビジネス社会。つまり、反省していなくても反省しているように見せる。故意でやったのに不可抗力であったように見せる。逆に、本当に不可抗力だったのに故意だったように見せる。また、全く評価できないのに大げさに賞賛する。さらには、全く責任はなかったような状態であったにもかかわらず、全面的に責任を負っていくなどなど…
こうしたもはや常人では耐えられない状態を少しでも軽減すべく、言いたい放題本音を吐きまくるというのが、「本音セッション」である。
「本音セッション」を”愚痴”と誤解するケースがあるが、それは大きな間違いだ。そもそも、日本のビジネスパースンには”仕事上の愚痴は恥”という意識が強く、その結果、新橋で泥酔した上でベロンベロンになって、ようやく本音を吐くという具合である。高度成長期までのビジネスパースンであれば、これでよかったが、いまどきの社会のA型ぶりは新橋で酒を飲んで腹の虫が収まるほど甘いものではない。
現実さながらのシチュエーション設定を行って、言いたいだけ本音を吐くプログラムが本格的な「本音セッション」。テラテーメント研究者によれば、設定が現実的であればあるほど高いセラピー効果が得られるという。
たとえば、心の底から嫌いな顧客にできるだけ似たシチュエーション・アクターを用意し、言いたいことを言う。あるいは、全く考えていないことについて執拗に突っ込んでくるアナリストそっくりさんとのミーティングを設定し、「そんなことイチイチ考えてねぇよ」などと不良高校生のごとく毒づくなどである。
一方、テラテーメントはあくまでもテラテーメントであり、「楽しむ」ことが重要である。「楽しむ」という要素を忘れた場合、とてつもなく陰湿な後味の悪さだけが残ったり、セッション後、激しい現実とのギャップに耐え切れないということが起きる。要は洒落にならない状態にしては逆効果ということであり、専門家のアドバイスは欠かせない。
テラテーメント研究者によれば、こうしたセッションはプロとしての学術的訓練を受けたセラピストがコーディネイトしなければ大変に危険であるという。「素人はヘタに実行しないことだ」と強く警告を発している。
作り話です。信じないでください。