神経の無い人、神経の太い人(4) フトシさんの挫折 | 丸の内で働く社長のフロク Powered by アメブロ

神経の無い人、神経の太い人(4) フトシさんの挫折

今回も前回からの続きです。

中堅商社で快進撃を続けるフトシさんでしたが…

【フトシさんの挫折】


フトシさんの順風満帆の会社人生に転機が訪れました。
責任者として切り盛りしてきた逆オークションサイトのプロジェクトが正式な部署として
認められたのは、良かったのですが、フトシさんは正式な管理職としての職能等級に
いたっていないという理由から、新たに専任の上司が着任してきたのです。

適当にやり過ごして、俺の考え通りにやろうと思っていたフトシさんでしたが、
考えていた以上に、上司の介入がきつく、だんだん嫌気が差してきました。


最近、大好きになって、はまっているゴルフをまとめてやりたいという
不純な動機もあって、転職を決意します。
幸い、フトシさんの実績に関心を持つ企業は多く、良いオファーをいくつかもらいました。
その中で、外資系のIT機器メーカーを選択。
理由は、提示報酬が一番良く、メーカーとしても世界的に地位を築いている存在
だったから。
フトシさん自身、どこかに”あまり知られていない中堅商社勤め”ということに
コンプレックスもありました。
仕事内容はパートナー営業。この会社の製品を売ってくれるベンダー向けの営業
を担当します。これまでも同種の製品を扱ってきたキャリアが活かしながら、
ベンダーをコントロールして売上を上げるということにも新たな興味が涌きました。





そんなことで、この外資系IT機器メーカーに入ったのですが、外面から見ていた会社と
実際に中から見た会社のギャップに戸惑いました。


まずはじめに、調子が狂ったのが、同じ部署の同僚に自分を知ってもらおうと
ランチの際に前職での武勇伝を自慢にならない範囲で面白おかしく
説明していたときのこと。


始末書を何枚も書かされたけど、
全部始末書作成サイトで作っていたということを話すと、
同僚たちは笑うことも無く、

「ウチだったら始末書とか無いし。
始末書なんか書かせるよりクビにした方が早いじゃん。」
という冷たい反応。




更に、あるとき、直属のマネジャーから
「フトシさん、仕事には慣れましたか?
何か気づいたことがあったら教えてください。」
といわれ、

「部署内の伝票類が非常に多いので改善すべきではないでしょうか。
細かいレベルの電話で済む話まで伝票を書くのは手間だと思います。」

という、比較的まともと思ってもらえそうなことを言うと、

「それは、君の考えるべき事じゃないよ。
君はどうすればウチの製品が売れるのかを考えるべきなんだ。
そんなに伝票について考えたいなら業務ポジションを望むべきだったね。」
というこれまた冷たい反応です。




以前の会社では、自分の担当すること以外にも色々と意見をしたり、
注文したりすることが良いとされていたのですが、
新しい会社ではそうではないようです。

どちらかというと、何かに集中して取り組むより、拡散的に色々なことに
手を付けながら、徐々に形にしていく仕事の仕方をしてきたフトシさん。
そんなフトシさんにとっては、自分のアサインメント内に限定した形で
仕事をすることが窮屈に感じられるのでした。





そんなある日のこと。
フトシさんの同僚のダイヤルインが長いこと鳴り響いていました。
新しい会社では、以前と違い、電話はすべて個人直通のダイヤルインです。
離席時、不在時には、ボイスメール(留守番電話)を設定するルールになっています。
ところが、同僚はボイスメールを設定しないまま離席してしまったようです。


たまりかねて、同僚の電話をピックアップすると、
同僚が担当するパートナーからちょっとしたクレームを受けました。
どうやら発注していない製品が納品されたようです。
フトシさんは機転を利かせ、即座に対応。
同僚が不在の間に、製品のキャンセルを手配してあげました。




持ち前の機転を利かせ、同僚の不在中にキャンセル手配をしたフトシさん。
翌日、同僚に呼び出され、全く意外な言葉をぶつけられます。
「フトシさん、君は何でそんな勝手なことをするんだ。
他人のダイヤルインを勝手に受けて、他人の注文を勝手にキャンセルしやがって。」

フトシさんとしては顧客の立場に立ち、不在の同僚に成り代わって対応しただけ。
感謝されこそすれ、怒りをぶつけられるとは…


悩み


同僚は確信犯的に受注していない製品を納品していました。
彼はこれを”セールスイン”と呼びました。
確かにパートナー(代理店)に製品を出荷すれば会社の売上は上がります。
『でも、エンドユーザーが買わなければ、
在庫になるだけで本当に売ったことにならない』はずだとフトシさんは考えます。


しかし、同僚によれば
「あのパートナーは販売力もあるし、
あの製品を買うエンドユーザーが付いていることは、わかっている。
在庫として寝るのは今月だけで、来月にはきっちり”セールスアウト”されるんだ。」
とのこと。


さらに、同僚の怒りの原因は、この会社の評価の仕組みと関連がありました。
同僚はノルマ達成がかかっていただけでなく、フトシさんが手配したキャンセルによって、
賞与評価に大きなマイナスになってしまうのでした。



これは、会社側が”セールスイン”しただけで、その後在庫化した商品が”セールスアウト”
されずに返品されることを恐れたために生まれたルールでした。
過去、セールスを強化した際に、パートナー(代理店)に在庫を抱えさせ、
その後に大量の返品がおきるという事件があったのです。
この事件は本国を巻き込んだ大問題に発展。
営業部門の役員を筆頭に何名もの社員が責任を追及され、会社を去ったのでした。




今回のキャンセル記録は、フトシさんが誤って勝手にやったこととして処理されました。
そんなことで同僚の賞与評価には影響がなくなったのですが、
同僚に対しては”無理なセールスイン”をしている営業部員というマイナスの印象が
与えられたことも事実。
その後、フトシさんとこの同僚との関係はギクシャクしたものになりました。



フトシさんにとって更にショッキングな出来事がおきました。
自分が転職する際に熱心にこの会社に入ることを
進めてくれた上司の突然の退職です。

確かに厳しく叱責されることもありましたが、スマートに仕事を進める”できるビジネス
パースン”である上司には強い信頼を寄せいていました。



『あれだけ熱心に誘ってくれたのに…
何の前触れもなく、いきなり退職とは…』
フトシさんは非常に寂しい気持ちに襲われました。
『せめて、事前に話してくれても良いのに…』




そんな気持ちを抑えきれず、フトシさんは上司に問い詰めました。
「なぜ、あれだけ熱心に私を誘ってくれたこの会社を辞めてしまうのですか?
しかも、私を誘ってくれたのは、ついこの間ですよ。」


すると、上司は”何を言っているんだ?”というような少し驚いたような様子を見せながら、
「フトシさんはプロとして仕事をするということがわかっていないんだね」
と返すだけでした。



『プロとしての仕事…
つまり、この人はあくまで仕事として僕をこの会社に入れただけだったんだ』
フトシさんは自分の甘さを後悔しつつ、
『ここは自分の居場所じゃない』と考え始めるのでした。



そうです。
フトシさんの悲劇もナシオさんの悲劇と同様に、
自分が”活きる”場所を選ばなかったことに原因があるといえます。

こんなフトシさんやナシオさんにとっての打開策はいよいよ次回、
恐らく、たぶん、書くことになると思います。
(気が変わったらごめんなさい)