こんにちは。
ブランディング戦略家の鈴鹿久美子です。
今日は出張先であったことを
「小説風」で
ちょっと。
「タクシーをご利用でしょうか」
チェックアウトを済ませ、
キャリーケースに手を置くと
ドアマンが声をかけてきた。
「おねがいします。」
この荷物をひとりで持って歩くのは
無理に見えるのだろう。
今回の出張は3県を渡り歩いてきた。
キャリーケースは着替えと資料で
うんざりするほど重い。
それに一昨日は
私も「当選の弁」
同席することになっていた。
そうなれば裏方といえどもスーツは必須。
それもあって、
鞄の他にガーメントの大荷物だ。
欲張って2冊加えた本の重さも恨めしい。
さてと、
今日は
昨日に続けて
同じクライアントとの打ち合わせ。
来年にひかえた選挙戦略も大詰めだし、
演説パフォーマンスの
トレーニングも仕上げなきゃ。
ちょっと焦るわ。
私の仕事は選挙コンサルティング。
内密で進める仕事が多く、
人目に付かないよう
いつどこで誰に見られても
面が割れないよう
服装を変えていた。
眼鏡も仕事用とはちがう
カジュアルなものをかけていた。
それもあって
荷物が多くなるのは仕方がない。
ホテルのドアを出て、
タクシーのトランクに
大きな荷物を積み込んでもらい
座席に乗り込んだ。
その時
・・あれ・・?
かすかにではあるが、
車内の空気がどことなく柔らかい。
なんでだろう、と不思議に思いながらも
あまり気に留めなかった。
「どちらまで参りましょう」
荷物を積み終えた運転手が
シートベルトをつけながらそう言った。
「あ、えーと」
( 昨日と同じ場所だからGooglemapに履歴があるはず・・・)
スマホをのぞき込んで
「あ、これ、
フシミチョウのぉ、えーっと」
運転手が、
「はい、昨日と同じ場所ですね」
「え?!」
バックミラー越しに
いたずらっぽく笑う
白髪の運転手の顔があった。
少し混乱しながらも
車に乗り込んだ時、
何かやわらかく感じたのは
昨日と同じ車という安心感から
だったのかもしれない。
それにしても
同じホテルから乗るならまだしも、
昨日は空港からだったのだから
よほどご縁でもあるのかしら。
私が
「えー、こんなことってあるんですね」
驚いてそう言うと
「私は運転手になってから25年ですが、
お客様で二人目です。」
「昨日、空港でお持ちの荷物が
重そうだったのを
さっきね、
ホテルの玄関で思い出したんですよ。
あー、お客さん、同じ方だと思って。」
話しは弾む。
「お客さん、ここはよく来られるんですか?」
「はい。月に数回は」
「はぁー。最近は女性でも男と同じように
仕事しますからね。
それも出張もするとなると立派ですねぇ。
お客さん、お仕事は何を?」
「いえ、まぁ、あはは」
そりぁ、誰にも言えないのは仕方ないけど、
こんな時のためにも何か言葉を
準備しておくべきだなぁ。
彼の話しを聞くと、
この土地は彼の奥さんの故郷。
かつては自分の仕事で
家族と東京に住んでいたけれど、
奥さんのご両親の介護がはじまり、
行ったり来たりでもお金がかかって
散々悩んだあげく、
自分が仕事を辞めることにしたのだ、と。
奥さんと子どもも連れて
この土地に住むことにしたのだ、と。
「でもさぁ、お客さん、
ここは言葉も、
方言があるでしょう。
それが何言ってんだか分からなくてねぇ、
なんで俺、
こんなところに来たんだろうって、思ってね。
女房に八つ当たりして、
せめて道でも覚えれば
少しは気も楽になるかと思って
運転手になったんですよ」
そこまで聞いて、
彼の言葉が東京弁だということに気がついた。
「お客さん、東京から、
また来てくださいよ。
出張でも旅行でも
来てくれたらこの町も
もう少しは景気が良くなるから。
そうしたら年末にさ、
孫に奮発してやれるってもんさね。」
運転手さんはそう言いながら、
薄くなった白髪をゆらし
やさしく笑った。
「はい、こちらで宜しいでしょうか。」
到着したのは昨日と同じ場所だ。
ドアが開き
外に出ると
足元に踏みしめた
黄金色のイチョウの落ち葉が
カサッと音をたてて舞い上がった。
「お客さん、また、
私の車を停めてください。
そうしたら3回目の初めてのお客さんだ」
そう言って笑う彼の笑顔は
やさしくて
やわらかで
そして
少し哀しそうに見えた。

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