「路地裏のあやかしたち」の作者行田尚希さんの最新作だったので手に取りました。

私個人的に、非常に親しみのある作品でした。
学生時代、日本美術史のゼミに入り、また博物館実習をして学芸員の資格も取得しているので、
作品の博物館の有様が容易に想像できました。
私が実習をさせて頂いた博物館は県立で、まさに作品の博物館のようにみんなの税金で成り立っており、
県の生涯学習の一環で年に数回ワークショップを開いていました。
同じように、作品の中でもワークショップを開いていたので、懐かしく思えました。

「『学芸員』は雑用ばかりだから『雑芸員』なんだ」と博物館実習の先生が言っていたなぁと思い出していたら、
作品内でも同じことを言っていて、思わず含み笑い。

作品は、連作短編の4作品です。
春夏秋冬と季節に合わせていて、主人公の若菜がいろいろな経験をしながら一年を通してどう成長していくか、を読むことができます。
博物館の仕事物語だけでなく、人と人との心のつながりもしっかり書かれているので、読んでいて楽しかったです。
しかも若菜の奮闘ぶりに周りの人も協力していき、その輪がさらに広がって…、と一人ではできないことが、多くの人の力を得て、成し遂げてられていく様は見ていて優しい気持ちになれました。こんな博物館があったらいいなぁ。

個人的に印象に残ったのは、「初夏の森で」。
この話のメインの登場人物、イケメン高校生、鷹臣くんのイラストがないのが残念ですが(笑)、心暖まるストーリーです。
人が人を想う気持ちは、時に無謀な行動に駆り立ててしまうかもしれないけれど、相手の大切なものを守りたいという深いものを感じました。

また「真冬の迷路」で、主人公若菜の先輩学芸員である秋吉の言葉も心に残りました。
「チャンスを掴めるかどうかには勿論運もあるけど、そのために準備をすることも重要なことです。それは特別な何かをすることじゃなくて、今いる場所で吸収できるものは吸収する。それでいいんだと思います」

焦りから、あれもやったほうがいいんじゃないか、これもやったほうが…、と右往左往し、結局何がしたかったんだろうな、と思うことがあるので、この言葉はズシリときました。

物語自体はサクサク読める作品なので、ご興味のある方はどうぞ。