EXCELじゃ在庫管理はできない | 事件は物流現場で起こっている

事件は物流現場で起こっている

30数年、物流の現場で働いてきました。その時に思ったこと、考えたこと、感じたこと、をつらつらと書いていきます。年寄りの戯言です。

 

良く「在庫管理」として本が出ているのは、生産担当者や仕入れ担当者が必要な、適正在庫数に関するものです。

それは売れるものの在庫は切らさないようにする、売れ残るような過剰在庫は持たないようにする、ことです。

売れるのに在庫が無ければ販売機会の損失です。売れないものが大量に残れば不良在庫を抱える事になります。どちらも会社の資金繰り=経営に関わる大きな問題です。

 

この記事で取り上げる在庫管理は、倉庫内の実際の商品在庫についてです。

 

倉庫内の在庫管理を行う手段としてWMSがあれば良いですが、私の倉庫では当初はWMSを導入していませんでした。(出来なかったというのが正しい表現です)

そんな倉庫の多くが在庫を管理するツールとしてMicrosoft EXCELを使っているのではないでしょうか?

 

私は幾つかの倉庫でEXCELを使って在庫管理をしました。

結論から言うとEXCELでは在庫管理は出来ません。

全く出来ない訳では無いですが、「正確な」在庫管理は出来ませんでした。

 

では倉庫の在庫が合わないと何が悪いの?

先に会社の資金繰りに影響するとしましたが、現場担当者とすると「顧客から注文を受けた時に商品がない」時が一番怖いです。

あちこちから「なぜ在庫がないのか?一つもないのか?」と攻めたてられます。

精神的なプレッシャー&ストレスが大きいですね。

 

EXCELでの在庫がよろしくない理由は沢山あります。

 

1)入力を間違える。漏れる。

まずこれが原因の90%を占めるでしょう。

・1行ズレて入力する。違うSKUの在庫が動く。

・10個のところ100個で入力する

・入荷なので+200個とすべきところ、-200個と入力して出荷した事になってしまう。

・SKU数が沢山あって幾つかのSKUの入力を漏らしてしまう。

・そもそも忙しくて入力自体を忘れてしまう。

 

EXCELでの入力の弱点は、予定に対するチェック機能がない事です。

例えば今日商品Aが200個入荷する予定だとします。作業終了後EXCELに今日の入出庫数を入力します。そこでAが+200個になっていなければ「あれ?」と気がつけるのですが、EXCELではそういうチェック機能がありません。

やろうと思えばAccessなどで作り込めますが、事前の準備が大変で、それをやるくらいならば安いWMSを導入した方が手っ取り早いし、正確です。

 

2)タイムリーに入力出来ない

現場で入荷や出荷をしたその都度にEXCELに入力するのはほぼ無理です。

作業終了後にまとめて入力するでしょう。

そうすると1)で挙げた入力ミスが起こりやすくなります。

 

それでは作業者と別に事務所の人に入力してもらうようにしてみました。入荷チェックした納品書を事務所に回して出来るだけ直ぐに入力してもらいます。

確かによりタイムリーで正確な入力が出来るようになります。

ただ商品の事を良く知らない事務所の人だと大きな間違いがあっても気がつかない事があります。

作業者が大きな間違い、勘違いをした数を伝えても気がつけないです。B商品は通常100個の在庫を持っている程度の商品でも作業者が1000個入荷とするとそのまま登録されてしまいます。間違いが発生する確率は少なくなったのですが起こった場合、発覚するのが数日後、数週間後になる事があり、ダメージが大きくなる場合が多いです。

 

3)複数人が同時に入力出来ない

在庫管理をするEXCELファイルは一つにする必要があります。

複数のファイルに入力してそれを後から統合しようなんて、また間違いを起こす要因をわざわざ作っているようなもんです。

 

ではそのファイルをどこに置くか?大抵は会社の共有フォルダでしょう。そこに常にアクセス出来るようにしておかなければなりません。倉庫の現場にもアクセス出来るようにLANやWi-Fiを用意する必要があります。

 

またEXCELファイルには複数人が同時に更新が出来ません。Aさんがファイル更新中にBさんが入力して保存すると、Aさんの更新分が繁栄されない事があります。

私もそれでやられました。

これも在庫が合わなくなる一要因になります。

 

4)出荷数を正確に把握出来ない

入荷は1SKUについて1日に何度もないでしょうから、入荷数合計を把握するのは難しくないでしょう。

出荷は色々な顧客(納品先)に出荷があるでしょう。商品Aのその日の出荷合計数を取得する必要があります。

受注の仕組みでSKU単位の出荷合計数が取得できれば良いですが、倉庫サイドで各出荷数を足し算していく、それをEXCELでやるのは間違えの元になります。

 

私の会社では1日のSKU毎の受注数の合計が取得出来ました。その数値をEXCELに入力していました。

しかし受注担当者が顧客要望で商品サイズを交換したり、返品(返金)のために受注数ファイルに手入力で入荷・出荷をする事がありました。頻度は多くないと言え、在庫は合わなくなります。

 

5)本社のシステムで入出庫が行なわれてしまう

これは4)で述べたと同じ事です。受注システムではなく帳簿在庫の元となる会計システム上に本社の人間が手入力で入出庫操作する事がしばしば起こります。

倉庫の実際の商品在庫に変わりないですが、付け合わせる元の帳簿在庫の数が変わってしまう訳です。

 

これはWMSを使っていても起こりうる状況なので、要注意ポイントです。

 

6)在庫管理の動きは入出庫だけではない

倉庫の商品の動きは入出庫だけではありません。例えば、

・商品が汚れていたり壊れていたりしている。廃棄するために在庫から差し引く必要がある。

・商品が汚れていたり壊れていたりしている。でも修理をすれば出荷する事が出来る。修理をする間は受注での引き当てがかからないように在庫を避けておく必要がある。

・商品AとBを組み合わせてセット品Cを作る。セット作業の間、AもBもCも在庫にないので避けておく必要がある。

 

これらをEXCEL上で入力・管理するのは大変です。複雑な表や何枚ものシートを作れば出来ない事はないかもしれません。

しかし1)の入力間違いを発生する確率をどんどん上げて行くわけです。

 

原因はまだまだあったように思いますが、これ以上書いても気分が悪くなるだけなのでやめておきます。

私はビル・ゲイツさんに恨みはありません。妬みがあるだけです。

 

私がやっていた当時はEXCELでの管理以外に手段はありませんでした。今はクラウドで月数万円でWMSを導入する事も可能なようです。

上位の会計システムや受注システムと連携すれば、在庫管理だけでなく、入荷・出荷の情報連携も可能となり、オペレーションの効率化、精度アップの可能性が広がります。

 

注意今日の用語:「WMS」

これまで何回か登場したWMSとは倉庫管理を専門に行う情報システムです。

Warehouse Management System(ウェハウス・マネージメント・システム)と言います。

 

倉庫内の商品の保管、入出庫の動き、ロケーション管理、棚卸などなど商品が倉庫に入ってきて出ていくまでの倉庫業務をフォローする機能を備えています。

またバーコードを使ったチェックや、ピッキングリストの発行、作業者への作業指示、マテハン(物流用機械)のコントロールなどが出来るものもあります。

その現場や商品に合った機能を持つWMSを選ぶことが必要です。

 

しかし何でも出来る魔法のシステムではありません。あくまで人が操るものなので、使う人の知識・スキルが重要です。

 

クローバーコメントお待ちしております。