息子

 

前進 1回目

 

昭和55年(1980)5月

隆一は高木興業の事務所に顔を出した。

藤川が新聞を読んでいた。

「面白い記事でもありますか」

隆一は藤川に話しかけた。

「大島さんか」

「何を読んでいるんです」

「内閣不信任案が可決したって」

「それじゃ、新しい首相を選ぶか衆議院を解散するかのどちらかだね」

「大島さん、どっちになると思う」

「さぁ、どっちかな」

「俺は選挙をすると思う。大平首相も面子を潰されたんだ。衆議院を解散して野党と対決したいだろう」

「でも、大平首相で選挙に勝てますか」

「大平首相には田中角栄が付いている。田中軍団は資金力と行動力があるから、勝つかも知れん」

「田中さんはロッキード事件で自民党を離れていますよね」

「大島さん、田中さんは目黒の闇将軍だよ。実質的に自民党のボスだよ」

「野党が内閣不信任案を国会で可決したのは、選挙になっても勝つ自信があるからでしょう」

「政治家はそれぞれの思惑で動くから、これからいろいろな駆け引きがあるのだろう。しかし選挙になれば、大きな金が動くな」

「金が動いても我々の懐には入って来ませんよ」

「大島さん、いつの時代でも金は上の人の懐に入るもんだよ」

 

次回は6月17日に書きます。