息子
門出 1回目
高木はA市に事務所を開いた。
ここは温泉街である。
鄙びたところであったが、戦後に愚連隊が入り町が荒れた。
地元の博徒・清水組に愚連隊を押さえる力がなかったからだ。
清水組組長が稲守会に窮状を訴えた。
稲守会長はこのことを工藤龍三に任せた。
工藤は高木をA市に送り込んで問題の解決を図ったのであった。
事務所を開いたその日、高木は山崎と隆一に言った。
「俺たちの生業は土建屋である。これでやって行く。そのつもりでいてくれ」
この日から隆一はスクーターで営業に回った。
飛び込み営業である。
市の土木課や建設会社に顔を出して名刺と会社案内を置かせてもらった。
どこも対応はあっさりとしたものだった。
一度、隆一は事務所に戻った。
「お疲れさん」
山崎が隆一を迎えてくれた。
「どこかから電話があったか」
「チリンとも鳴らない」
「そうだよな。そんなに甘くないよな」
「お茶を入れるから、一息入れろよ」
「ありがとう」
隆一は自分の席に着いた。
次回は明日書きます。