貸元
初夜 7回目
栄は穏やかな日を過ごすようになった。
子供たちに『手習い』を教え、そのあとはよねと針仕事をする。
針仕事をしながら、よねと何でもない世間話をしていると日が暮れるのが早かった。
「どんなことがあったか知らないが、こうやって穏やかに暮らすのがいいさ」
よねは栄の身の上を襲った不幸については何も知らなかったが、いまの暮らしを続けることを栄に勧めた。
栄はよねの心遣いが嬉しかった。
子供たちの笑顔も栄の心を温かくしてくれた。
穏やかな日々を過ごしているうちに季節がどんどん移っていった。
「栄さん、お客さんだよ。若い女の人」
「通してください」
よねが客を通す前に栄は部屋の縫い物を片付けた。
若い女は手代風の若者を連れていた。
「わたし、きぬと言います」
栄はどきりとした。
きぬは栄を身請けした旦那(弥次郎)の妻である。
(どうしたのだろう)
栄は突然現れたきぬに怖れを抱いた。
よねの顔も強張っていた。
次回は明日書きます。