貸元
跡目 7回目
喜衛門は文吉を従え、軽い足取りだった。
「文吉、お前が俺のところに来てどのくらいになる」
「十年以上になります」
「もうそんなになるかい。俺も歳を取るわけだ。確か喧嘩が原因で在所に居られなくなったのだったな」
「網元同士が漁場のことで揉めまして。あの年は不漁でみんな頭がおかしくなっていました。些細なことで喧嘩となり、役人が出張る騒ぎとなり結局、喧嘩両成敗であっしが所払いとなりました」
「そうだった。洲崎の網元は元気にしていなさるかい」
「へい。何でもせがれに代を譲り隠居されたと聞きました」
「隠居されたのか。色が黒く声の大きな人だったな」
「海の上は日に焼けますので」
「文吉、あれは何だ」
「酔っ払いでしょう」
次回は明日書きます。