コノ話の続きです。


がんが発覚した後、
M君は私の為に様々な検査の手配をしてくれた。

CT、MRI、PET-CTなどの画像検査。

すい臓生検などの各種検査。

指導医の先生の、
はからいもあったかもしれないが、
実務は、M君がひとりでやってくれたらしい。

極めて早いタイミングで、検査を入れてくれた。

それが、研修医のお仕事じゃん。

あたりまえじゃん。

そう思った患者は、
がん治療と言うこのゲームに敗ける。



彼を知り、己を知れば百戦危うからず、
である。
医療サイドの考え方を知るべきだ。



ところであなたや家族にがん疑いが
出たら、どうだろう?
タイヘン
タイヘン
早く検査をしてよ
と思うのではないだろうか?

がん疑いの人の場合、MRIは入院で通常、1か月、
外来なら2か月ほど待たされることも
珍しくない。
さらに手術は待たされる。
場合によっては(一般に進行の遅いがんの場合)
4~5か月
待たされることも珍しくない。


しかし、これは当然なのだ。



よく考えてみて欲しい。
Q大病院にはベッドが約1000床ある。
そのうち、半分の約500床の患者は

ほっとけば、死ぬ患者である。

はっきり言えば、Q大病院などの中核病院において、
初期の胃癌などは、軽症の部類に入る。



博多駅であなたが、鼻血を流して倒れていれば、
大騒ぎになる可能性がある。
場合によっては救急車を呼んでくれる人が、
いるかもしれない。



しかし、Q大病院に送られて来て、
原因が重病などではなく
ただ、転倒した、などの理由であれば、
ティッシュペーパーを鼻に詰められて、
追い返されるのがオチである。
彼らは重病人の治療で忙しい。


先ほどの話に戻る。
MRIなどの検査機器、
あるいは手術室のベッドなどは、

ほっとけば死ぬ重病人

たちの間で、
順番が争われているのだ。

あなたやあなたの家族だけが、
重病人なのではない。

が、医療サイドから
みんな死にそうなんだから、
あなた(または家族)
にも待ってもらわなきゃ。
とは言えない。

この医療サイドと
患者サイドの感覚のズレは大きい。

第一、日本の医療機関は優秀なので、
脳や心臓などの、明らかに治療を急ぐ病気の場合、
きちんと適切な処置を取る。

切除可能ながんは、
数か月ほっといても
治療成績に与える影響は極めて軽微である。

もちろん、どうしても
体調がオカシイと思ったら
医師や看護師さんに報告するべきだが
過度にクレームを付けるのは、やめよう。


私の場合、
最前線で働いてくれたのは
研修医のM君。

M君のおかげで
私は、すいがん疑いから
2週間後にはMRIに乗り
手術の予約は3週間で入った。




転移巣の骨生検を受けた時期
私は9階の糖尿病内科から
6階に引っ越し
泌尿器科の病室で、寝泊まりしていた。

M君は泌尿器科にも
度々見舞いに来てくれていた。

そして、電子カルテで
私の病状を把握していた。

健康体→
尿膜管がん疑い→
すい臓がん疑い→
すい臓がん確定→
尿膜管がん確定→
転移巣疑い→
手術不可能→
転移巣シロ→


手術可能。

↑私の各診断をすべてM君は見ていた。

初めての患者が私で
見た目がいかにも健康な患者で
でも、助けられなかったら
M君は医療に
自信を失ったかもしれない。



背骨の生検が良性だと聞いて私は

6階の泌尿器病棟から、
9階の糖尿病病棟に遊びに行った。

Q大病院の研修医は、
2か月ごとに研修先の科が変わっていく。

その日は5月31日、
M君は糖尿病病棟、最後の日で

先輩医師たちから
かわいがり

を受けていたらしい。

ノートパソコンを積んだ台車を押して、

病棟内を巨躯を揺らし、
猪のように走り回っている。

私が、

「おーい、M君。そんなに走って
看護師さんにぶつかったらどうすんだよ?」

と言うと、極めてメイワクそうな顔で

「何しに来たんですか?今日はラストなんで
超忙しいんですけど。」

口調も早口で若干、不機嫌である。

私は

「転移病巣の生検な、あれ、シロだったぜ。」

表情が変わる。

私のほうに
まっすぐドタドタ走ってくる。

息がキレている。

顔つきで
興奮しているのがわかる
「シロって?」

「良性だった、ってことだ」

と私。

「と言うことは?手術適応?」

息が上がっている。

「そうだ。」




M君は飛び上がって

ガッツポーズ。





「おい、早く帰らねえと、仕事、仕事」
と私。

「ああ」

と言って彼はまた、ドタドタ走って行った。




危なかった、15も年下のガキに
涙を見せるところだったぜ。

ありがとう。

嬉しかった。

そのハートを持った医者でいてくれよ。


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