オレは親友という言葉を、
安易に使うのにかなりの抵抗がある。

ある友人が親友だとすれば、

果たしてそいつのために死ねるだろうか?

ということを常に考える。

自分の心の中のことであるから、
嘘は付けない。

だから、外野から(友人の彼女や奥さんが多い)

○○(友人)と大目玉さんは親友だよね?
とか言われると

心の中で、

そこは土足で
入って欲しくないと思う。

「そうじゃ無い」

とは言えないから苦笑いしながら

「そうだね」

と答える。

別にその友人のことが
嫌いなわけではない、しつこいが

そいつの為に死ねるか?

を真摯に考えるのである。

友人本人に

「お前は親友だ」

と言ったことはない。

照れるのだ。

だが、田中は親友だ。

あいつが、オレのことをどう思っていても。


 
 

さて、もう一つのエピソード。

午前6時頃、病室で携帯が鳴った。

うるせえなあ

って思いながら画面を見たら、元田。

「おはよう、元田くん」
(ミッションインポッシブルの司令官の感じ)

電話を取ったら、酔っぱらっている。

「あのさあ、お前んちの会社どこ?」

って、べろんべろんの口調でオレに尋ねる。

繰り返すが、午前6時である。

「お前、酒くせえぞ」

ってオレが言うと

「○○チャン(妻)にお見舞いを届けようと思って」

「だから会社、教えて」

って言う。

「お前、今、どこにいるの?」

って聞くと

「下通のドンキ。」

って答える。

親父の会社に妻は勤めていて、住所は戸島。

元田の家は松橋だ。

熊本に住んでいる人ならわかると思うが

下通りから戸島までは、クルマで30分。

下通りから松橋までは、クルマで1時間。

しかも、ほぼ逆方向である。

タクシー代が2万じゃ足りんな。

って、アタマの中で計算した。

「やめとけ、元田。お前べろんべろんだぜ。」

「明日にでも、クルマで来いよ。」

って言っても

「タクシーだから大丈夫。」

って言う。

で、しょうがないから

「熊本市東区戸島○○・・・」

って教えてたら、途中で

「プーッ。プーッ」

って切れた。

その後、何度電話かけても

「お客様のおかけになった電話は、

電波の届かないところにあるか、

電源が入ってないため、かかりません。

(あー、長え、短くしてくれよドコモさん)」

「お客様のおかけになった電話は、

電波の届かないところにあるか、

電源が入ってないため、かかりません。

(二回目はコピペで貼り付けた、よし)」

で、しょうがないから

オレは寝た。





10時ぐらいに、ウチの嫁から

「元田さんが、
お母さんたちのところにいるらしい。」

って電話があった。

なんで、実家にいるんだ???

嫁が勤めてるのは、オヤジの会社の工場。

実家はクルマで5分ぐらいだけど、

歩いていくにはチト厳しい。

「なんで、アイツ実家にいるの???」

って俺が聞くと

「知らないよ。こっちが聞きたいよ。(軽く、怒)」

って言う嫁。

「とにかく、忙しいから後で電話する。」

って言って嫁は電話を切った。

その日はバリバリの平日で、忙しかったらしい。


 
 
後で聞いた話を総合すると、

元田は、ウチの親父の会社に行こうとして

タクシーの運転手さんに
調べてもらったらしい。

ところが、ウチの会社の登記は
親父の家、菊陽。

普段、実務をやっているのは
戸島の工場である。

中小企業にはよくあることだ。

で、間違ってウチの実家に着いたらしい。

ウチの実家には
防犯カメラが付いている。

元田が酔っぱらって、
うろうろ実家の周りを探していたら

ウチのお袋に見つかったらしい。

お袋は元田とは面識があった。

で、お袋が

「元田くーん、まあ入んなさい。」

と、言ったというわけだ。

こういう時に
医者という肩書きは便利だ。

繰り返しになるが、
元田はこの時、べろんべろんで酒くさい。

午前7時前である。

警察を呼んでいてもおかしくない。

だが、元田がウチの実家に上がった後

話を聞いてるうちに

ウチのお袋は

「まあ、呑みなさい」と

酒を出したという。

平日の午前8時頃。

なかなかシャレてるぜ、お袋。

 
 

この時は転移が見つかって、
Q大の医師に

さじを投げられかけてた時期だった。
 
 

元田は朝っぱらから、酒を飲みながら

 

「目玉の手術はオレがします。」 
(※お気づきかもしれませんが目玉は、偽名です)
 

「誰も手術しない、って言ったらオレがします。」 
 

と泣きながら、 
 

繰り返し言ってたらしい。

 
お袋は
「あの子、目玉くん。じゃなくて、目玉って言ってた」

って何回も言った。

反応するのはそこ?

 

あのなあ、元田、酒気帯びで手術はやめてくれよ。

違う、違う。

あのなあ、元田、お前、小児科医だろ?
手術したこと、あんの?
注射だって、苦手なくせに。

違う、違う。

あのなあ、元田、お前、オレの手術なんかして
オレが死んだら
医師免許剥奪だろ?

 
 

ただなあ、元田。

ありがとう。

お前はオレの親友だ。

お前がオレのことをどう思っていても。




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