今日英語の勉強をしているとき、even thoughという言葉が出てきて、そういえば平井堅の歌でeven ifっていう歌あったよなぁ、どんな意味なんだろう、と思いました。
こういう、思考が全然違うところをつなぐときは「自分が無意識に求めてる何かがあるかもしれないとき」なので、できるだけ引っ張ってみるようにしてます。
というわけで英語を調べつつ歌詞を改めて見てみたら、当時(高校生くらい)はよくわからなかった歌詞が理解できるようになりました。
パートごとに解釈を書いていこうと思います。
 
---A1---
たまたま見つけたんだってさっき言ったけど、
本当はずっと前から君を連れてきたかったんだ
 
キャンドルが優しく揺れるこの店のカウンターで
君は嬉しそうに彼にもらった指輪を眺めてる
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ここで重要なのは-彼にもらった指輪を眺めてる-ではないかと思います。
大抵の人はここで「彼(男性)が指輪を渡した相手だから、君は女性である」と認識するようなのですが、この歌では指輪の贈り主(彼)以外は性別の表記がありません。
君を連れてきたかった僕も、男女どちらかわかりませんし、君も男女どちらかわかりません。
「指輪」を「もらった」なので、この指輪は「結婚指輪とは限らない」し「まだ指にはめていない」ということを暗に示したかったのではないかと思いました。
結婚指輪なら「左の薬指」って感じのワードをいれると思うんですよね。
 
 
---B1---
君の心に僕の雫は落ちないけど
このバーボンとカシスソーダがなくなるまでは
君は 君は 僕のものだよね
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「雫は落ちない」の意味は難しいなーと思うのですが、落ちない代わりに今だけは(一時的には)君を独占できている、というニュアンスなので、雫が落ちる=パートナーになる、的な意味なのかな? と思いました。
「君は 君は」と続くのは最初強調かと思ったのですが、ここはおそらく-言いよどんでいる-のではないかと思います。
なぜそう思ったかというと、そのあとに続く「僕のものだよね」というワードがすごく強いからです。
ぶっちゃけバーボンとカシスソーダがなくならなくても-僕のものではない-のです。
無理やり自分に言い聞かしているように見えて、だからこれは言いよどんでいることを表現してるように感じました
 
 
---サビ1---
鍵をかけて 時間をとめて
君がここから 離れないように
 
少しだけ酔い始めてるのかな 本当の気持ちだけど
君も少し 酔った方がいい
そして僕の肩に 寄りかかればいい
 
だけど全ての言葉をまた飲み干して
君から目をそらした
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ここはあんまり個々の部分に意味があるようには感じていません。
サビ1全体を通して私が感じたのは以下の意味です。
「互いにお酒のせいにしてあわよくばを期待してるけど、自分から持ち掛ける勇気はない」
なんというか、とても受動的というか、主体性のない感じだなぁと。
相手を奪いたいというよりも、自分と過ちを犯してほしい、的に感じました
もっとエグイ解釈だと君が主体になって彼を裏切って僕を選んでほしい」くらいの雰囲気がある気がします。
 
 
---A2---
会話が途切れて 二人の時間がさまようたび
きまって君は彼の話ばかりを繰り返す
 
君のことはどんな事でも 知りたいはずなのに
言葉をさえぎるためだけに 煙草に火をつけた
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ここで重要だと私が思うのは、この二人は会話が途切れるということです。
盛り上がってないとも受け取れますし、もしかしたら「君」がそもそも乗り気ではなかったのでは、という風にも受け取れます。
「君」が彼の話をするのは、おそらく僕と彼が既知の仲だからだろうなぁと私は思っていて、共通の話題がそこしかないのかも、と思いました。
一見すると「君」が「僕」を牽制するためとか、無邪気に喜んでる、という風にも見えるんですが、彼の話をするのは「会話が途切れたとき」なんですよ。
場を取り持とうとしてるのは、誘った「僕」ではなく誘われた「君」の方だと見れます。
 
それをわからない「僕」は「君」の気遣いに直接応えることもせず、煙草に火を点けるというアクションで話を遮るわけですね。
そして自分からは何も言わず、また話が途切れるので「君」は彼の話をするしかない、という。
「僕」のクソヤローっぷりが一番出てるパートだと思います。
 
 
---B2---
君のグラスは 他の誰かで満たされてる
このバーボンとカシスソーダを飲み干したら
君は 君は彼の胸に戻るの?
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ここの「君は 君は」も言いよどんでるように私には見えました。
彼の元に帰る、ではなく、彼の胸に戻る、という表現が平井堅らしいですね。
セクシャルな印象も受けますし、物理的な隔たりを強く感じさせる言葉選びだと思いました。
戻る、ということは、元々いる場所が彼の胸、ということになるので、ここで「僕→君→彼」の関係性が明確になります。
 
 
---サビ2---
鍵をかけて 終電を越えて
君がこの店から帰れないように
 
今はただ独りよがりだけど 本当の気持ちなんだ
君もいっそ酔ってしまえばいい そして彼のことを忘れちゃえばいい
 
だけど残りのバーボンを今飲み干して
時計の針を気にした
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時間を止めるという不可能なことではなく、終電を過ぎてほしいという現実的な願いに変わりました
酔って彼を忘れてしまえばいいと願う、ということは「君」は酔ってないということで、君「も」ということは、自分は酔っている、ということですね。
「僕」が願っているのは「君も酔って、酔いのせいにして彼を忘れて、終電を逃して帰れなくなってしまうこと」ですね。
終電を逃して帰れなくなる=一夜を共にする、ということでしょう。
ものすごくきれいな表現をしてますが、要するに「酒のせいにして一時的に肩書は忘れてセックスしようぜ」ってことですよね。
 
そしてリスナーを迷わすのがこの「バーボンを飲み干した人は誰か」というところです。
 
ここまでで「僕は酔っている」「君は酔っていない」というのがわかります。
そして、どちらがバーボンを飲んでいるのかは明記されていません。
カシスソーダとバーボンでは、バーボンの方が強いお酒なのは明白です。
 
飲み物を飲み干すときは、大抵席を立つときや、場を終わらせるときだと思うので、バーボンを飲み干して時計の針を気にした人は、場を終わらせようとした人、だと思います。
 
説① 強めのお酒(バーボン)のせいにして君とワンチャンしたい僕が、願いはするものの行動には起こせなくて結局時計の針を気にしてしまった。
説② カシスソーダで酔ってしまうお酒に弱い僕の意図を知ってか知らずか、バーボンを飲んでも酔わない君が帰りを意識して時計を見た。
 
このどっちかだと思うんですよね。
私は、バーボン=男、カシスソーダ=女というイメージをうまいこと利用して、君=カシスソーダを飲んでる女性、僕=バーボンを飲んでる男とミスリードさせてるように感じました。
私の解釈では、バーボンを飲んでいるのは「君」です
そして、「僕」も「君」もどちらも男性か、どちらも女性だと思っています
 
しかしこの歌のすごいところは、これが同性愛(両性愛)の歌と解釈しても、ヘテロの歌と解釈しても、どっちでとらえても情緒的なところ。
ありがちで普遍的なことをここまで見栄えのいいオブラートに包んで歌にするのはすごい。
 
 
---サビ3---
そりゃかなり酔っ払っているけど
その責任は君なんだから
鍵をかけて 終電を越えて 時間を止めて
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こんなに情けないワードを締めにもってくるあたり、平井堅の歌詞の「リアルさ」が出てる感じしますね。
 
しかし、終始出てくる「鍵をかけて」の意味がイマイチわかりません。
物理的にお店のドアの鍵の鍵をかけて「君」を帰れなくするのはまったく情緒が無いのでありえないとして、じゃぁなんの鍵をかけるんだろう?
二人で過ごしているこの時間?
君を求める僕の気持ち?
彼を求める君の気持ち?
いろいろ考えられますね。
 
 
-まとめ-
この歌、切ない片思いの歌と見せかけて、実は「肉食系のヘタレが、パートナーがいる思い人を酔わせてワンナイトラブしようとしてるけど結局自分からなんもできない歌」かと思います。
僕がカシスソーダで、君がバーボンを飲んでるとしたら、お酒の強さにそこまで差がある時点で、飲みでワンチャンはほぼ無理でしょう。
でもそれしか方法が無い(思いつかない)んだとしたら「君」が「僕」を選ばないのもむべなるかな、というところですかね。
 
「君」の立場、というか肩書によっては、浮気か不倫を求める歌、というロマンチックもクソもない歌なのですが、普通に聞いただけではそれとわからないように仕上げるのが平井堅のすごいところだと思います。
ものすごく普遍的なことを、ものすごく普遍的に歌ったかと思えば、急にロマンチックな比喩にしたり、その現実と空想の間をジェットコースターさせることでなんか有耶無耶にしつつ情感だけ残す、という超上級エモ手法だと思います。
 
でも突き詰めれば、ヘタレの他力本願ワンチャンチャレンジソング(性別未定義)な歌って感じですね。
こう書くと急に俗っぽいですが、俗っぽいものこそリアルですから、そう考察できるところまで含めておもしろい歌だなと思います。
しかしまぁ、本来はシンプルな「あなたと性的に触れ合いたい気持ち」を、不倫や浮気や不貞行為という悪事に当てはめるのが当然という人たちは、片思いしてる側が切ない感じだったら許せちゃうんですかね?
私はこの「僕」はヘタレで他力本願なクソヤローだと思いましたが、ある意味超リアルなんですよね。
終電を越えて二人が一時的に一つになることは特に気にならないのですが、不倫とかをバッシングする人がこの歌を「切ない……」とか言ってたら大爆笑してしまいそうです。
 
不倫も浮気も片思いもすれ違いも両思いも全部切ないはずです。
even ifという言葉は「○○だったとしてもダメだろう」的な、ネガティブな意味の文章になることがお多いようです。
even thoughはその逆。
そこを踏まえて歌詞を見ると、たとえ終電を越えて二人が一夜を共にしたとしても「僕」が「彼」の座に収まるのは無理だろう、という意味にとれます。
だとしても、求めずにはいられず、淡い期待で一歩踏み出して「君」を誘ったのだとしたら、まぁ確かに切ないですね。