女王蜂というバンドをご存知でしょうか。

アニメのタイアップ曲やボーカルの人のドラマ?映画?の出演で知っている方もいるかもしれません。

 

このバンド、元々は性別や国籍が非公開というミステリアスなバンドで、ボーカルが男女の声を使い分けていて、6~7年前はかなり好きでした。

曲は荒いながらもパワーがあり、歌詞も「性別」「性」「性的なタブー(禁忌)」「人種」「表に出てこない罪」「差別」といった目を背けがちだけど決して逃げられないテーマの曲が多く、アンダーグラウンドの側が強烈に「自分の存在を無かったことにするな!」と叫んでいるような、アグレッシブさが魅力的でした。

 

 

初めて聞いた時ものすごいインパクトを受けたのは↓の「売春」という曲です。

あ、それ歌っちゃうんだ!

しかもどっちの側も自分で歌っちゃうんだ! すげー!

ってなりました。

タイトルからしてかなりアグレッシブですが、歌詞もだいぶアグレッシブです。

うまく濁してはいますが、誤魔化してはいないんです。

 

 

こちらの「Q」という曲はもっとガチです。

私はこれは、近親相姦の歌ではないかと思っています。

 

直接的な表現をせずに、ここまで鮮明にイメージを湧かせる歌詞もなかなか無いと思います。

私の解釈ではありますが、母を無くした父と娘の近親相姦と、娘が父の子供を産んだか堕胎するかしたエピソードではないかと思ってます。

が、歌っているボーカルが、おそらくMTFのトランスジェンダーなので、場合によっては父と息子の近親相姦を歌ったものかもしれなくて、なんかこう、ヒリヒリするように頭に残ります。

 

 

大分初期に出たこの「鉄壁」という曲は、人種差別と性差別の歌なのではないかなぁと私は思っています。

とてもMTFトランスジェンダーっぽい歌だなぁと感じました。

 

演奏や音質はかなり微妙です。

でもそれが問題にならないようにうまく構成された曲だと思います。

 

 

 

といった感じで、みんなが触れない分野にがっつり爪痕を残しながら活動していたバンドだと感じていたのですが、東京喰種のタイアップになった「HALF」という曲の後から、なにやら方向性が変わってしまいました。

 

 

端的に言うと、闇が消えた。

刺すような、傷痕を残すような、聞く人によってモヤモヤが残るような、そういう「引っ掛かり」がなくなったんです。

HALFのあとに出した催眠術という曲が、とてもつまらなくて、どうしたんだろうと思っていたのですが、その後に出した火炎という曲が、もう女王蜂じゃない感じだったんです。

 

 

とても明るく、とても難しく、ただうるさいだけの曲、と私は感じました。

歌詞もどこにも引っかかるところがなく、何を伝えたいのかまったくわかりませんでした。

音楽の技術的には一段上がった感じはするんですが、代わりに女王蜂らしさを失った感じです。

何かに対して日和ったような、そんな印象をうけました。

上手い具合に音を並べて、隙間なく高音と低音で音をぶつけてくるのが、ただただやかましく聞こえてしまった。

 

 

その後もアルバム数枚は聴いていたのですが、何度も聴きたくなる曲は一曲もありませんでした。

私が女王蜂をすごいと思った売春という曲の続きとも言える「回春」という曲も出たのですが、売春と比べると表現がものすごくマイルドで、まったく刺さらない。

 

売春と歌詞を見比べてみたら一目瞭然だと思います。

言葉が薄くて軽いんです。

春を売ってた側が大人になって昔を思い出してる、というテーマらしいので、そういう意味では表現が直接的でなくなったことの理由として筋は通るのですが、まったくもってつまらない。

悩みも迷いも苦しみもまったく見えない。

昔を思い出してちょっと切なくなってる、程度の歌をわざわざ女王蜂が歌う意味がわからない。

 

もしこの歌が、何かしら他からの圧力でマイルドに調整されたのだとしても、ボーカルのアヴちゃん自身がいいと思って作ったんだとしても、私の好きだった女王蜂は死んだし、もう蘇ることはないんだなと思いました。

誰もが触れたがらないところを真っ向から眼前に叩きつけるかのように歌い上げるのが私の知ってる女王蜂だったので、今の女王蜂は「アングラから闇を捨てて表舞台に立ち、陽キャにポップな歌を提供するよくいる普通のバンド」になってしまったなぁと感じています。

それが彼らにとって良いことなのであれば、まぁいいのかもしれません。

逆に、ポップで明るくないと音楽で生きていけないのであれば、今の音楽業界が本当に残念です。

 

 

女王蜂のドラムは、ボーカルのアヴちゃんの実の妹がやっていて、演奏自体はさほどうまいわけではありませんでした。

ただHALFまでの女王蜂の音楽には、技巧的なドラムは必要なかったんです。

基本が四つ打ちのダンスビートやバラードなので、ドラムはリズムを支えるのが役目で、見せ場とか特に必要ない感じだったように感じました、他のパートが圧倒的にパワーがあるので。

 

しかしどんどん名が売れていって、トータルで底上げしていかなきゃいけない状況についていけなかったのか、ドラムをやってた妹さんは活動を休止し、その後脱退しました。

プロの世界のドラムがどんなものか私はわかりませんが、何度かライブを見た感じからして、正直「火炎」のドラムを叩けてたとは思えないんですよね。

スタジオミュージシャンが代わりに叩いてたと言われても納得というか、無理もないよねというくらいのレベルの上がり方だったので……

どういうやりとりがあったのか、実態がどうだったのかはわかりませんが、見てきた私からすると「上を目指すにあたり、技術が合わない妹を切り捨てた」ってことなんだろうなと感じています。

それ自体が良いことか悪いことかというのは、私たちリスナーが決めることではないですが、こういう結果になったことでなおさら「あの頃の女王蜂」がもういなくなった、というのを痛感しました。

 

陽でポジティブな作品ばかりがもてはやされるのだとしたら、日向で息ができない人達はどうやって生きていけばいいのだろう、と思ってしまいました。