※映画の内容に触れるので、未視聴で視聴予定の方は読むとネタバレになります。
BLUE GIANTの映画を三回見ました。
音の良い映画館→普通の映画館→音のすごく良い映画館、という順番で見たのですが、やっぱ音の良い映画館は普通の映画館とは別格でした。
音の良い映画館=ドルビーシネマ
音のすごく良い映画館=極音
なんですが、個人的にはドルビーシネマの方が好き。
極音は期待してたほどではなかった。
三回見ても細かい発見があるので、何回見ても私は楽しいです。
なんせ音楽が良いので、ライブ見に行ってるようなもんですからね。
サントラもめっちゃ聴いてますが、映画だと部分的にエコーかかってたり、ユキノリのいるWE WILLがちょっと聞けたり、ユキノリが両手のFIRST NOTEをちょっと聞けたり、玉田がまだヘタなときのFIRST NOTE聞けたりするのが良い。
あとやっぱり絵やセリフとかの演出が入ると全然印象が変わりますね。
フレッド・シルバーのライブでのユキノリのソロのところは何回見ても良いし、拍手したいのを必死にこらえてる。
初回見てから特に印象的だったのが、手の描写に力が入ってること。
大のサックスだこ、ユキノリの節ばった指先、玉田のいつもテーピングとマメだらけの手、そこにシーンのスポットがあてられることが多い気がしました。
楽器って基本的に手を使いますもんね、手の動きと楽器の組み合わせは秀逸。
私はドラムやるから、玉田の手の感じはすごくわかる。
スティックを握るのに力が入りすぎて指の根本のところが筋肉痛になるんですよ、特に始めたばかりのころ。
スティックを振る摩擦でマメができるんですけど、それがずっと治らないほどってことは、もうとにかく毎日叩きまくってるってことなんだなーと、そこから玉田のがんばりが見えて、とてもアツい。
大が主人公なのに、なんだか玉田の成長物語のように見えるのはドラマー目線だからかなとも思うんですが、玉田の成長がホントにアツい。
初回見たとき度肝を抜かれたのは、So Blueのライブにユキノリが来たこと。
大と玉田が退出するところで平さんの横を通り過ぎたから、あれ? って思ったんですよ。
「とても意味のあるライブだった」ってやりとりするんじゃ? と思ってたら、まさかのユキノリの「病院ってのは、無理矢理退院できるんだぜ」って、いやそれ知らなかったけど大丈夫なの!? ってなりました。
で、そこで別れのやりとりすんのかなと思ってたら、アンコールで弾くって……まじで? ホントに弾くの? え、ホントに弾いてる!!! って感じ。
三人がステージに向かうとき、客席の望月さんが席を立って驚いた演出は最高だった。見てる私がまさにそれ。
ラストのFIRST NOTEはピアノが左手だけですが、片手でもピアノが入るとこんなに音が違うんだ、というのを感じましたね。
ユキノリのソロのとき、大のサックスがさりげなくベース音吹いて下支えしてるんですよ……あれはアツい。
初ライブのときのFIRST NOTEは、途中で玉田が叩けなくなっちゃうんですが、ライドの刻みの音がなくなった瞬間になんかこう、足元がぐらつくような拍子抜け感があったんですよね。
ドラムが土台を支えてるんだっていうのを初めて感じました。
散々ドラム叩いてきてるのに、いや、自分がドラムだからか、ドラムのいない感じがよくわかってなかったのかもしれません。
たった一つの音を出し続けるだけでも音楽なんだ、って思えて、なんか嬉しくなりました。
あの未完成FIRST NOTEのドラムがついていけてない感じ、あれめっちゃリアルですごくいい。
クラッシュシンバルのタイミングのズレとか、刻みのズレ、ストロークの未熟な感じがどれもすっごいわかる。
そして今自分がどこ叩いてるのかわからなくなるあの感じ、焦り。
必死にリカバリーしようと音を探すあの感じ、音を出してみるものの合ってなくてやっぱり軌道に戻れない感じ、それでも演奏は続いていく恐怖、力量のなさを痛感して途方に暮れる無力感、どれもすごくわかる……
玉田のあの苦しそうな表情、振り上げたスティックが下せずに手が固まってしまう感じ、すごくわかる……それでもドラムをやめなかっただけでもう玉田は努力のプロフェッショナルだと思う。
そして映像面でも、So BlueのWE WILLの玉田のソロは素晴らしかった。
演奏シーンは3DCGになってるところが多いのだけど、玉田のソロはほぼアニメーションで描かれていて、しかもかなり細かく描写されてたことに三回目でようやく気付いた。
スティックの残像と体の動きの溜めとかすごくよかった。
ピアノの演奏部分はすごく幻想的な描かれ方をしていて、どちらかというと静止画が多かったのだけど、逆にそれが良かったと私は感じた。
ピアノの音と幻想的な色使いや透明感がマッチしてたし、ユキノリのソロなんかはそこかしこにユキノリの過去、これまでの軌跡を散りばめていて、彼の集大成であることがばっちり描かれていた。
一瞬線画のようになったり、抽象画のようになったり、激しく動いたかと思えば静止画になったりと、構成がとても巧みだと思う。
サックスの部分はとにかくパワーを表現しているんだなと思った。
光と、宇宙、音の波形がテーマかな? すごく大きく、広く、壮大に描写されていて、大のイメージにぴったりだと思った。
そしてなにより嬉しかったのが、マンガで使われてた表現をそのまま静止画で使ってくれたこと。
あ、これ見たことある! っていう描写がホントにたくさんあって、音と色がつくとこんな風になるんだ……とすごくジーンときた。
3DCGについては正直イマイチですが、それがわかっているからか、3DCGのときは、
「アニメーションを織り交ぜる」
「背面からのカメラワークを多用する」
「シルエットにする」
「遠景や俯瞰にする」
「手元だけ映す」
などなど、カメラワークと演出でうまいこと誤魔化せてる部分が多かったと思う。
演奏シーンっていうのは作画がとてつもなく大変というのは知っていたので、3DCGを使うのはやむなしだと思うし、それを製作側もわかってうまいこと構成と演出で融合させたんだと思った。
あともう後半になると慣れる。
そうなると、玉田のソロのアニメーションの力の入れ方を思って、あのシーンのアツさが格段に上がるんですよね……
声優さんも決して上手くはないのだけど、キャラと合ってるとは思った。
平さんの声優が東地さんで、めっちゃ好きな声だから嬉しかったし、すげー合ってた。
特に大と玉田の声優さんが後半にかけてどんどん上手くなってった気がするんですよねぇ。
ケンカのシーンとか演技がすごくよかった。
さて、ここからは少し残念だと感じた点について書きます。
①川喜多さんのバンドでユキノリが片手で演奏してたところ
これはちょっと納得いかない。
後半のシーンで、川喜多さんはいい家に住んでて音楽で賞とかもらうようなプロなのがわかりますが、プロのバックで演奏するのに手抜きはダメだと思う。
マンガだとユキノリが片手で演奏してるのに大が驚くシーンがあるし、映画のラストを考えると『ユキノリの片手演奏』というのが重要な要素なのはわかる。
そして川喜多さんを出すためには尺の問題で最初のシーンしかないのもわかる。
わかるけど、あれじゃ音楽を舐めてると言われても仕方ないと思ってしまう。
②玉田のドラム教室のくだり欲しかった
尺の関係で無理なのはわかってる。
でもあのシーン好きなんです。
最初8ビートって難しいんだけど、あのファンキーな先生が教えてくれたようなやり方するとホントにできるようになるんですよ(マンガ版の話)。
③マンガだとすごく好きなんだけどなかったシーンがけっこうある
始めてもらったギャラを分けるときの玉田とユキノリのやり取り。
玉田「俺はもらえねえ」
ユキノリ「おまえ、上手くなる気あんの?」
このやりとり好きなんでちょっと残念。
あとマンガだとユキノリが平さんにボロクソ言われたあとSo Blueの前で言うセリフに「……あの人、いい人だな」っていうのがあって、ボロクソ言われても、そう率直にダメ出ししてくれる人を「いい人」と思うユキノリの気持ちがすごく好きだったので、ちょっと残念。
仙台でのミュージックティーチャー黒木とのセッションも好きなので見たい気持ちはあるけど尺的に無理なのはわかってる。
大の兄貴がサックスを買うシーン、
それを大が受け取るまでのくだり、
母を失くしている大達兄妹の支え合い、
玉田が大を見送るシーン、
このへんは見たかったけど尺で無理、わかってる。
でも逆に「これ外したらダメだろ」というシーンが無いのがすごい。
重要なところは全部入ってるし、最後のFIRST NOTEいれるためなら仕方ないと思える。すごく妥当。
残念だったのはこれくらいですかねぇ。
由井先生のことももうちょっと描いてほしかったけど尺、わかってる。
とりあえずもう一回くらいは映画館で見ようと思ってます。
DVDも間違いなく欲しいし、BLUE GIANTの中であった楽曲を生演奏するライブがあったらぜひとも見に行きたい。
私もいつかジャズの曲を叩いてみたいな~と思いました。
試しに聞きながら叩いてみたんですが、N.E.W.もFIRST NOTEもcount on meもはちゃめちゃに難しくて無理だった。
7/8拍子ってなんやねん。
それにしても公開されてから一か月以上たつのに映画館の席がほぼ埋まってるの本当に嬉しい。
潜在的なジャズ好きってけっこういるんじゃないかな。
私が好きなジャズは正統派のジャズじゃないけど、でも、ジャズが好きと言いたい。