機能性ディスペプシアの症例 | 大阪弁天町の漢方薬局「廣田漢方堂薬局」のブログ

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機能性ディスペプシアの漢方相談では、初見で「これは対応不可ですね」というような、どうみても漢方で回復させることは不可能なくらい堕ちこんだ女性の相談も少なくないが、これらは早々にお断りして、お互いが不幸にならないように気を付けるようにしている。

 

機能性ディスペプシアと一言で言っても、漢方で対応可能な範囲内の方、そうでない方の差が激しいのがこの疾患の特徴の1つかなと現時点では感じている。

 

そんな中、まだ回復可能と判断した30代女性の症例。

 

西洋医学的な治療は一通り行ったものの、食べることへの不安感、息苦しさ、胸部閉塞感、胃部の膨満感のため、食事が同世代の一般女性の3割未満になってしまい、このまま食べることができなかったらどうしようということで遠方にもかかわらず漢方相談に訪れた。

 

症状発症のきっかけになったのは、それまで胃のトラブルなどほとんど経験がなかったにもかかわらず、旅行中にたくさん食べ過ぎて気分が悪くなり、嘔吐してしまったことにある。

 

その後は、「また嘔吐してしまい、気分が悪くなったどうしよう」という不安感が強く、食べたくても食べられない状態になっていったところ、徐々に胸部閉塞感や胃部膨満感が出てきて、そのために食事が咽喉を通らなくなってきたとのことである。

 

ただほんの少しでも食べた後に消化不良感、胃もたれ、ムカつきが出るようなことはなく、膨満感と吐き気は強くなるものの、スムーズに食べたものは消化できているような気がするということであった。

 

当該相談者は、自身の症状やこれまでの経緯について、細かく記載したメモを持参してきていたことも参考になった。

 

体力的には、まだ余力がある状態で、高校時代には陸上部で短距離走をしていたという経歴があるため、漢方相談と並行して、心拍数120~130前後の有酸素運動(ジョグ程度)を30分程度、できるだけ毎日行うように指導。

 

これは運動することで、ストレスホルモンの一種であるコルチゾールの分泌量をコントロールし、運動以外でストレスを抱えているときにでもコルチゾールの上昇を抑制させることができるようになるからである。

 

要するにストレスに対する反応を身体を動かすことによって過剰に反応しないように身体をしつけるのが目的なのだ。

 

心拍数をしっかりとあげることも有用で、食事に対して不安感が強くなり、心拍数が上昇した後、パニック状態に陥るような際に、心拍数の上昇に体を慣らしておくことによって、負の感情を鎮めようとする脳の働きを強化することができるのである。

 

運動によるこれら一連の働きは5週間程度継続することで徐々に発揮されるようになる。

 

また東洋医学的にも手足をよく使うことは、脾胃の働きを活性化することにつながる。昔、師匠に「運動とは石臼(脾胃)を回す取手(手足)を回すことにつながり、固形物が石臼に挽かれて細かくなり、それが精微になっていく様を表している」と教えられた記憶がある。

 

これは感覚的にも理にかなっており、「運動したら腹が減る」のである。

 

 

今回の症例では、女性が運動部、特に短距離の選手だったこともあり、ジョグやランニングを苦にすることはないだろうという判断の下、指導した次第である。

 

そしてさらに、膨満感等の不快感があったとして、運動前には必ずバナナ1本を摂り、運動によってその膨満感が増悪するのか、不変なのか、緩解するのかをしっかりと自身で確認させ、もし不変もしくは緩解するのであれば、バナナ1本を少し増やして行き、身体が食事を摂りこむことに慣れさせるようにする目的もある。

 

仮に運動することによって膨満感が悪化するのであれば、運動は中止させようと考えていたが、幸いにも悪化することなく、素直に受け入れることができたとのことで継続可能と判断した。

 

腹部膨満感は、胃腸内にガスが充満した状態もしくは食べたもので胃が満たされ、消化が進まず、食事が十二指腸に送られないことによって自覚する症状であるが、当該相談者については食事は満足に摂取できない、ガスが大量に発生している(放屁やゲップが多量に出る)とは考えられないことから、この膨満感は感覚的に膨らんでいるだけで実際は横隔膜を中心とした筋肉の緊張が強く、腹腔内に納められている臓器の空間的余裕がなくなるため、各臓器が圧迫されて自覚している症状なのではないかと考えた。

 

実際に腹部膨満感が物理的に存在する場合には、「腹が他覚的に膨れている」という現象が起こりやすいが、当該相談者の場合は腹部膨満感が強いときでも、そのような他覚所見はなかった。

 

これらのことから腹部膨満感は気滞による筋緊張によるもので、気滞を取り除くことで筋緊張度が軽減すれば、自ずと消失するのではないかと考えた。

 

漢方では、漢方業界の重鎮である大塚敬節氏が「診察室に詳細に自分の症状を書いたメモなどをよこすような患者には半夏厚朴湯がよい」という説を元に、胸部閉塞感・息苦しさに対しては半夏厚朴湯を、腹部膨満感に対しては四逆散を選択し、これらを服用することで各症状がどう動くかを観察することとした。

 

次回に続く・・・