妻の胃腸症状からみえる病態把握の一連の流れ | 大阪弁天町の漢方薬局「廣田漢方堂薬局」のブログ

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中医学ベースで漢方を処方する場合には、総じて「弁証論治」を行い、証に基づいて処方を決定するというのがスタンダードである。

 

しかし中医学の至極曖昧な世界観がどうしても自分に合わないと気づき出した時期がある。

 

中医学は人体の機能を非常に分かりやすく説明してくれており、優れた理論であるのは間違いないのだが、その一方で、曖昧であるが故、イメージしにくく、当てずっぽや思い込みが入りやすく、さらに空理空論に振り回されてしまう場面も少なくない。

 

そのような状況下では、自分の導き出した「証」が間違っているのか、「方剤選択」が間違っているのか、「方剤の用量・用法」が間違っているのかが客観的に判断できず、術者として右往左往する羽目になる。

 

ここから脱却するためには、やはり西洋医学的な解剖・生理を上手に中医学に取り込み、より具体的に・詳細に病態をイメージし、それに合わせた処方構成ができるようになるほうが良いのではないかということで、僕自身は「中西医結合」を選んだ。

 

それを選択することで、治療の幅は広がり、漢方のみならず、西洋薬も上手に併用しながら確実に、そしてスピーディーに症状を改善できると感じている。

 

例えば、先日、起床後に妻が突然、「胃が痛い」と言い出し、普段あまり体調不良に襲われない彼女が、苦悶の表情を浮かべていた。

 

一般家庭であれば、すぐにでも胃腸科へ受診し、医師の診断の下、薬を服用するのだろうが、我が家にはそのような習慣はない。

 

子ども5人を含め、犬すらも僕の判断の下、薬を使用する。

 

このときの妻の症状は、「周期的で、鈍痛・重痛を伴う大腹辺りの痛みで、その痛みの程度は我慢できないほど強く、波がある時はのたうち回るくらい痛いが、そうでないときは一切痛みはない。胃がキリキリしたり、吐き気がしたりすることはなく、また痛みの波が襲ってきたときに腹痛泄瀉するようなこともなく、ただただ痛い」ということだった。

 

「前日は、数時間、非常に冷えるところで座りっぱなし、精神的にも疲れ、帰宅後も疲労感に耐えかねて食事もあまり摂らずに横になるような状態だった。」

 

これらの状態から、僕の頭の中では・・・

 

まず胃のキリキリした痛み、吐き気、下痢はないことから、胃酸過多・胃潰瘍など、胃そのものの疾患は除外でき、さらに吐き下しがないことからウイルス性の胃腸炎も除外できる。

 

痛みの波が襲ってきているにもかかわらず、泄瀉しないということは大腸の痙攣でもない。

 

とするならば、昨日の冷えるところで座りっぱなし、精神的にも疲れ、食欲もない状態で横になるくらい体力が低下している状態で風寒湿邪を感受し、それが直中したものと考えられる。

 

疼痛の性質が「重痛」であり、「刺痛」や「鋭痛」でないことから、寒邪の度合いはさほど強くなく、風湿邪が主体となった虚実錯雑証の可能性を考えた。

 

さらにその痛みは周期性で、痛みの波が激しいことから、痛みを起こしている本質は「痙攣」であり、さらにこの痙攣は筋肉が激しく一気に動揺するような痙攣(このような場合には痛みは重痛ではなく刺痛となり、痙攣に伴って腸内に水分が溢れるため、下痢になるはず)ではなく、ゆったりとした大きい痙攣であると想像した。

 

そしてその痙攣の原因は湿邪、つまり腸平滑筋内部の浮腫みに伴う体液とミネラルのアンバランスに伴う一種のこむら返り的な状況によって生じたものと考えた。

 

 

 

そこでまず直接的に痙攣を止めるために、ブスコパンを2錠服用させ、その後に風湿邪を駆逐し、腸内の水分を脱水して、浮腫みを去り、体液とミネラルのバランスを調えてこむら返り状態から根本的に離脱させるのを目的として藿香正気散を規定量服用させた。
 

この病態把握は、西洋医学的でもあり、東洋医学的でもあり、また治療法も新薬・漢方共に使用しており、正に中西医結合となっている。

 

このような考え方は、今回の症例のみならず、たとえばアトピー性皮膚炎にステロイドを使いながら漢方で肌環境を調える、剥脱性口唇炎でプロペトを使用しながら漢方で口唇の皮の新陳代謝をコントロールするなど、様々な場面でみられる。

 

こうすることによって、より早く、より確実に陥った病態から離脱し、回復させることができるようになると実感している。

 

ちなみにコロナに関しても、我が家では妻が最初に1回だけワクチンを接種しただけで、その他のものは誰もワクチン接種していないが、学校や保育所で感染してきても、数日以内に咳などの後遺症など一切出すことなく完治させている。

 

この場合も、世間ではあまり使用されていない西洋薬・漢方のハイブリット療法である。

 

 

前述の妻の症例も、ブスコパン2錠と藿香正気散規定量を1回服用するだけですっかり治まった。

 

 

過去にはこのブログでもわかるように、漢方という手段に拘って、それを徹底的に研究することで名手になろうと努力してきたが、それは自分の勝手な思いであり、自分がやるべきことは、自分が使える手段をすべて駆使しして、早く病態から抜け出す手伝いをすることだと気づいて以降は、薬剤師として洋の東西に関わらず、使用していくことにしている。

 

これが功を奏し、より多くの不快症状を改善できるようになっているのは間違いない。