振り子のように | 大阪弁天町の漢方薬局「廣田漢方堂薬局」のブログ

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漢方には寒熱や虚実といった独特の概念がある。

 

通常であれば、これらは容易に変化することなく、適切な方剤で温補・清熱、補気・去邪すればいいのだが、気温などの外的環境変化、ストレスや飲食などの内的環境変化によって、振り子のように寒熱・虚実の程度が変化し、そのためそれまで問題なく服用していた方剤が、一時的に身体に合わなくなったりすることがある。

 

たとえば、機能性ディスペプシアの10代の女性では、腹部の強烈な冷えにより、ムカツキや消化不良が出ており、その冷えを解消するために温補をしていた。この胃腸症状は気温が低下すると如実に悪化することから、「久寒あり」として方剤を使用していた。ところがここ数日の気温の上昇によって、体内の冷えの程度に変化が生じたのか、これまでずっと同じ方剤を使って調子が良かったのに、突然調子を崩したという報告があった。

 

このような場合には、方剤の使用を中止するのではなく、減量することで温補力を調節してやるとうまくいくことが多いため、気温が高いときには減量して様子を見、気温が下がったら増量するように指示を行った。

 

 

また30代の別の女性では、平素は体力がなく、常に眠気があり、倦怠感、無気力感が伴っており、補気剤を常用することでよい状態を維持できていたのだが、仕事で強烈なストレスが加わったときには、異常に食欲が増加し、38度程度の発熱が起こり、興奮して眠れなくなってしまう。これは仕事のストレスで肝鬱気滞が強度に生じたために、気滞発熱を起こし、その熱で心熱が生じて不眠になっているものと推測できる。

 

この場合には、補気剤は全くもって不適当で、柴胡剤を用いて疏肝理気清熱を行うことで、それらの症状は急速に落ち着く。そして落ち着いた後はまた補気剤を服用し、一定の体調を維持することができている。

 

このような実例からわかることは、常に生体は変化しており、一定ではないということ。通常なら、このような現象はあまり起こらないが、ある種の体質では振り子のように寒熱や虚実の程度、状態が変化することがあるということである。

 

漢方を使用する場合には、固定的処方にするのではなく、状況に応じてまったく真逆の方剤を使用したり、服用量を調節する必要があるため、本人自らが自己調節できるようにしておく必要がある。

 

漢方家としては、決して見逃せない現象の1つだと言える。