剥脱性口唇炎の研究 ~口唇の構造から原因を探る~ | 大阪弁天町の漢方薬局「廣田漢方堂薬局」のブログ

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基本的に剥脱性口唇炎に関しては、慢性炎症を土台とする疾患として考えている。

 

慢性炎症の場合、ステロイドや抗生物質などは一切効果がないのが一般的な考え方。

 

多くの相談者の場合、口唇炎が起こり始めたときには、口唇の一部のみだったにもかかわらず、時間の経過とともに徐々に患部が広がるという特徴を持つ。

 

もともと下唇に症状があったものが、いつの間にか上唇にも広がっているケースも少なくない。

 

この原因として、慢性炎症によって生じた炎症性物質を駆逐するために免疫細胞などが活性化するが、その免疫細胞が正常な細胞を巻き込み、「誤爆」するため、その正常な細胞までもが炎症に巻き込まれて徐々に範囲を拡大し、上下唇が重なり合うことから、上下間での炎症の移行も起こってくることが要因の1つとして考えられる。

 

また口唇の皮膚構造を考えた場合、肌の皮膚構造と大きく違うのは、汗腺・皮脂腺が存在しないこと、角質層・表皮層が非常に薄く、毛細血管が走行する真皮層が透き通って見られるため、肌と違って唇は紅くみえるのである。

 

この構造は東洋医学的に、「肌は肌肉層が厚い=三焦気分の層が比較的しっかりしている。」、「口唇は肌肉層が薄い=三焦気分の層が非常に脆弱である。」と考えてよい。

 

通常、人間の身体の機能として、血に熱が籠ったときには、その熱を放出するために、血液中の水分を気分に持ち上げ、そこから汗腺を通して発汗させることによって、水を介して熱を放出する。

 

これが温病における「透熱転気」の根底となる。

 

しかし口唇は、肌と違って汗腺機能を持たないことから、真皮層=血分に熱が籠ると、その熱を気分に持ち上げてうまく排出することができない。

 

さらに三焦気分層が肌に比べて薄いことから、口唇の気分に蓄積できる熱量には限りがあり、その限界を突破してしまうと突如として口唇炎を起こしてしまう。

 

熱の勢いが強いときには、その熱を逃がすためにリンパ液を介して熱の排出を始めるため、リンパ液の漏出が起こってくる。

 

そしてリンパ液の漏出が始まり、口唇や口腔内の細菌がその漏出の傷口に侵入し、免疫が負けると細菌感染を起こして急性炎症に発展していく。

 

血管・血液は閉鎖循環系であり、血液に熱が籠った場合(血熱)、その熱は出血という現象で逃がすことができない。一方、体液は開放循環系であり、血液に熱が籠った場合には、人間の身体は一旦体液にその熱を移行させてから汗・尿・便・呼気を通じて熱を排出している。

 

仮に血に熱が籠って出血してしまった場合には、止血機能が働き、その出血を急いで止める機能を持っているが、リンパ液が漏出した場合には、リンパ液を止める機能がない。したがってリンパ液の漏出は止まりにくいのである。

 

口唇炎の場合、リンパ液の漏出が始まると、なかなか止まらないのはこのためであり、リンパ液が地味ににじみ出ることで口唇の皮はいびつな状態となる。(これを剥脱性口唇炎と勘違いしてはいけない。)

これは明らかにリンパ液の漏出、つまり急性口唇炎の1種として考えたほうが良い。このときに皮が気になって剝がしてしまうと、せっかくその下では細胞が新陳代謝を活性化させてリンパ液の漏出を食い止めようとしているのに、そのバリアが潰れてしまうため、ますますリンパ液が止まりにくくなるという悪循環を繰り返すことになる。

 

剥脱性口唇炎の場合には、何らかの原因により、非常に薄い表皮層の新陳代謝が異常に亢進し、そのために口唇の皮の肥厚が起こってくる。

 

その原因は、これまでの経験では、気虚・陰虚・血虚・瘀血・血熱・気分熱など多種多様であり、さらに全身を介しての症状というよりも、局所的な問題に終始することが多い印象がある。

 

そのため全身的な不快症状を加味したり、舌診や脈診を通じて行う一般的な弁証論治よりも、むしろ口唇の状態(皮が剥がれるサイクル・皮の厚さ・色・剥がれた後の痛みや熱感など)を指標とした局所弁証によって漢方療法を行った方が、より良い結果を導くことが多い傾向にある。

 

剥脱性口唇炎の相談を非常に多く受けているが、この疾患はある意味、アトピー性皮膚炎にも似るところがあるように思うが、肌と口唇の構造の違いから考えると、口唇に特化した応用が必要になってくるものと思われる。