消風散を用いて急激なアトピーの悪化から離脱した症例 | 大阪弁天町の漢方薬局「廣田漢方堂薬局」のブログ

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40代女性

アトピー性皮膚炎に悩み、他院にて鍼灸治療を行っていたものの、その治療が合わず、漢方に救いを求めて約3年前から当店で漢方療法を行っている。

 

この女性は、舌診と皮膚所見が全く合致せず、適切な方剤を見つけるまで四苦八苦したが、結局、アトピー性皮膚炎が起こっている原因は、何らかのアレルギー反応であり、この反応をうまくコントロールすれば、症状が治まるということがわかり、荊芥連翹湯をベースとした処方にすることで症状は安定して良好な状態を保っていた。

 

しかしながら、今年の夏(6月中旬:ちょうど夏至のころ)に急激に症状が悪化。

 

症状が悪化した原因は全く不明であり、当店に来られる前には毎年同じ時期に同様の悪化を繰り返していたという。

 

状態は、顔面から前胸部にかけて、毛細血管が充血し、紅斑を生じ、毛細血管の充血から患部には強い熱感があった。

また毛細血管の拡張から血漿液が漏れ出したためか、患部全体にむくみが生じ、掻破によって肌汁の漏出が起こっていた。

 

この状況に対し、「夏季・温熱によって悪化する皮膚疾患」という消風散の適応と見事に合致すると考え、消風散は血熱から毛細血管が充血し、そこから血漿が漏れて細胞外液が増え、浮腫を起こし、血分と気分の熱から二次的に風(痒み)が起こったために生じた皮膚疾患に対応する方剤であることから、とにかく急性的炎症を鎮めることを最優先とし、血分の熱を清することを主とし、気分熱・三焦の水滞は従として、消風散+三物黄芩湯+牡丹皮・芍薬をベースにした方剤を使用した。

 

そうしたところ症状は、約1か月で症状は元の状態にまで落ち着いた。

 

本来なら、これで一件落着のはずなのだが、本当の問題はここから。。。

 

消風散は、温熱の邪気が血分に侵入してきたことで励起される急性炎症に対して用いる方剤である。

 

であるとしたならば、急性炎症が去ったと思われる状況において、このまま継続使用すべきか否か。

 

この判断は非常に難しい。

 

安易に変更すると、残存する血熱によって症状がぶり返すかもしれないし、症状が好転したからと言って使い続けると消風散の代表的な弊害である乾燥が助長され、皮膚がボロボロになる可能性があるからである。

 

アトピー性皮膚炎というデリケートな疾患において、方剤の変更によって起こる症状の悪化は、できるだけ避けたいところ。

 

ただし消風散は体質改善の本治薬ではなく、あくまでも急性炎症に対応する標治薬であるから、自分の中ではこのままずっと使用することはありえないのである。

 

継続するか否かで重要になってくるのは、当然、患部の状況である。

 

この女性の場合は、すでに毛細血管の充血による紅斑は消失し、炎症を起こしていた部位の色素沈着がメインとなり、患部の浮腫、肌汁もほとんどなくなり、逆に患部の乾燥感が主症状となっていた。

 

これらの皮膚所見から、もう血熱は去っていることは明らかであり、さらに消風散の弊害である乾燥所見が出てきていることから、この方剤を使用する目標はすでに存在しないと考え、消風散は中止することにした。

 

ただし本当に血熱が去ったかどうかは、この時点では不明なため、三物黄芩湯+牡丹皮・芍薬は継続し、再び急性炎症が生じないように予防。

 

それ以外は気分の湿熱と活血化瘀を中心とした方剤を組み立て様子を見ることとした。

 

臨床家として標治薬により症状が好転した場合、これを継続すべきか、本治に移行すべきか、非常に判断に迷うところではあるが、そこはやはり弁証論治を徹底し、急に変方するのではなく、余計な生薬配合の身を省いて、少しずつ本治に近づけ、その時点での患者の状態に合わせた処方となるように工夫するのが良いと思われる。

 

消風散に限っては、症状が安定したからと言って漠然と使っていると、思わぬしっぺ返しが来ることがあるので注意が必要である。