「受験教育」から見た「道徳教科化」(3)-「愛国心」がなければ「いい中学」に行けない?- | 「お受験」問題ー子どもの「気持ち」-

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 受験のさまざまな問題について、皆さんと交流できればと思います。ご父兄・生徒さんにはあまり知られていない問題を取り上げたいと思います。
 なお、「傾向と対策」「学校情報」(進学率など)は基本テーマになりませんので悪しからず。

前項の続き)
 中学入試の「物語文」・記述問題が政府が植え付けたい「価値観」の「刷り込み」の場となっていることは、「思想統制?-実は恐ろしい『物語文』・『記述問題』-」で述べたとおりです。

 以下、内容を確認しておきます。

 (1)上記の記述問題では「感謝」「愛情」「協力」など、
政府が植え付けたい「価値観」と合致した言葉が頻出ワードになっている。

 子どもは膨大な演習を積み重ねるうちに、違和感があっても登場人物の心理をこのような言葉で捉えるようになっていき、政府の「価値観」に即して「物語文」を読解するようになっていく。

 (2)出題者・例答作成者(大手塾・参考書会社など)・受験生など
「当事者」は、誰も記述問題をこのような「刷り込み」の場とは認識していない。
 
 このような例答を作って演習させるのは、一般には大手塾や参考書会社だが、彼らも一般的には「生徒を合格させるために、減点されにくい例答を作っている」という認識と思われる。

 場合によっては、「思想的理由」に基づく場合はあるかもしれないが、多くはないであろう。

 (3)
この種の「刷り込み」は記述問題のような「正解が曖昧な問題」であれば基本的に可能ではないか。

 以上が、「思想統制?-実は恐ろしい『物語文』・『記述問題』-」のまとめです。

 上記記事でも述べましたが、
私立中学の国語・入試問題において、今後、「愛国心」の「刷り込み」が行われる可能性は大いにあると思われます(尤も、私立中学・国語だけではないと思いますが、この点は後述)。
 
 上記記事で述べた経緯を見れば明らかで、「減点されにくい答案」を作ろうと思えば、公立小学校の「教育内容」に即した答案を作るのが一番、確実です。

 公立小学校で「国や郷土を愛する」心を植え付ける教育が行われるわけですから、それを「読み取った」答案が書けたということは小学校の教育内容をきちんと吸収した小学生ということになります。


 そういう答案が大きく減点される可能性は少ないと言えます。

 とすれば、参考書会社・大手塾はこのような答案を書けるよう、子どもに訓練させるでしょう。

 また、「道徳」では感想文などを書かせるそうで、この種の文章を書くのは子どもの方も慣れているということになります。

 受験生にとっても書きやすい答案になるでしょう。

 もちろん、学校側がこのような「紋切型」の答案に高得点を与えないようにすることは一応、可能です。

 しかし、現実には一部の超有名校を除きこのような措置は不可能でしょう。

 まず、受験生の大半は大手塾の授業や参考書会社の例答で勉強して入試に臨んでいます。

 大半の受験生がこういう答案を書けば、一定の減点はあるにせよ、ひどい低得点をつけることは難しいでしょう。

 ほとんどの受験生が解けない問題は出題しても意味がないからです。

 超有名校であればその問題用に対策を練ることも考えられますが、一般的な中学では受験を回避されることになりかねません。


 そもそも、記述問題の「正解」は曖昧で学校側が望む答案は何なのかは具体的には把握できません。

 「愛国心」を「読み取らない」で何を読み取れば高得点になるのかは不明で、単に学校側がこういう答案を拒否するだけでは、受験生は戸惑うだけのことです。

 上に述べた超有名校用の対策も高得点の「決め手」がない中で何とか、合格できるよう暗中模索するというのが実情になると思われます。

 次に、こういう措置では大手塾の受験生が不利になります。

 しかし、「教育改革」によって大手塾の私立学校への影響力が非常に増していると言われる中、このような措置は大半の学校では不可能ではないかと思われます。

 さらに、上記の「改革」によって文科省の私立学校への影響力も増していると言われます。

 「愛国心」を読み取った答案を拒否するよりは、むしろ学校側も国の方針に即して出題・採点を行うことが予想されます。

 以上は、私立中学に即した話ですが、それだけも問題があります。

 (1)に述べたように、このような答案を書く演習を積み重ねるということは「愛国心」を「刷り込まれる」ということです。

 このような「刷り込み」に疑問や拒否反応を示す受験生は入試では極めて不利になります。

 「愛国心」の「読み取り」やその「強要」に疑問のある受験生は入試では不利になります。

 つまり、
ある程度の「愛国心」がないといわゆる「いい中学」には入れないということです。

 これだけでも問題ですが、「エリート」の問題は「エリート」だけの問題ではありません。

 当然ながら、「エリート」はそれ以外の子どもの模範になることが多いわけで、「愛国心」が高い地位の前提にあれば、それ以外の子供たちもそれを真似するようになるでしょう。

 その上、以上は私立中学・国語だけに限定される問題とは言えないように思われます。

(この項、続く)