陰嚢湿疹は、陰嚢の皮膚に慢性的な痒みが生じるようになる皮膚疾患です。

陰嚢の皮膚はとても薄く弱いため、繰り返し掻き毟っているうちに、皮膚が傷付いてしまい、掻破性湿疹と呼ばれる皮膚の赤みや湿疹などの炎症が生じた状態になる場合があります。

一般的な皮膚の痒みは、皮脂の不足による乾燥、体毛についた雑菌の繁殖、アレルギーなどが原因となって起こる場合が多いですが、陰嚢の痒みは、前立腺肥大症、膀胱頚部硬化症、尿道狭窄などの排尿障害が背景にある事が多い傾向にあります。

このような排尿障害によって膀胱内に溜まった尿が体外へ排出されにくくなると、膀胱から尿が再吸収されてしまい、周囲の汗腺から汗とともに尿素などの毒素が通常よりも多く排出されるようになります。

そのため、汗腺が密集している陰嚢の皮膚に痒みが生じやすくなります。

陰嚢は、熱に弱い精巣の温度を低く保つ働きがあるため、わずかな温度上昇によっても発汗が起こりやすい部位ですので、陰部の蒸れや熱がこもる事によって、すぐに発汗が起こるため、皮膚がベトついきやすい性質があります。

それにより、陰毛の生え際で雑菌が繁殖しやすくなるため、雑菌の作り出す毒素や皮脂の分解産物である脂肪酸などの炎症物質によって痒みが起こりやすくなります。

また、皮膚の常在菌の菌体そのものや、それらが作り出す毒素に対してアレルギー反応が起こる場合もあり、陰嚢の痒みは、これらのいくつもの原因が複合的に影響して発生している場合があります。
いんきんたむしは、水虫の原因菌と同様の白癬菌が表皮に寄生する事によって起こる皮膚疾患です。

陰嚢湿疹は、陰嚢の皮膚に発赤や湿疹が起こる事が多く、性器や肛門などの皮膚が薄い箇所にも痒みが及ぶ場合がありますが、いんきんたむしは、皮膚の角質層に含まれるケラチンという成分を栄養源にして繁殖する白癬菌によって起こるため、陰嚢、性器、肛門などに生じる事はほとんどなく、陰嚢の周囲の足の付け根(鼠径部)、太腿、お尻など、皮膚の角質層が豊富にある所に発生しやすい違いがあります。

陰嚢湿疹は、前立腺肥大症、膀胱頚部硬化症、尿道狭窄などの排尿障害が背景に潜んでいる場合が多いため、頻尿、残尿感、尿漏れなどの症状が見られたり、アレルギーの影響からも症状が引き起こされる場合があるため、花粉症、慢性鼻炎、蓄膿症といったアレルギー体質による疾患を抱えている場合が多い傾向にあります。

いんきんたむしは、皮膚にカビの仲間である白癬菌が繁殖した事によって起こる感染症ですので、下着が汗ばんだ状態のままで過ごしていたり、陰部に皮脂や垢などの汚れが多く溜まっている状態が続いている事によって起こる事が多く、多汗症などで陰部が蒸れやすい場合に生じやすい傾向にあります。

また、いんきんたむしの人は水虫を抱えている場合も多く、あぐらを組んで座った際に、足に付いている水虫菌が股間にも付着して発症したり、水虫の患部を触った手で股間を触る事によって発症する事もあります。

病変部の違いは、陰嚢湿疹の場合には、掻き毟る事によって皮膚の発赤や湿疹などの症状が見られるなど、掻破性湿疹に発展する場合もありますが、皮膚には特に異常が見られないケースも多く見られます。

いんきんたむしの場合には、白癬菌が皮膚の角質層に寄生する事によって、皮膚に発赤や色素沈着が必ず生じるようになり、皮膚が隆起したような湿疹(丘疹)が見られるようになります。

そして、傷付いた角質層がポロポロと剥がれ落ちるため、カサカサして乾燥したり、粉を吹いたような状態になる場合があります。
陰嚢湿疹になると、陰嚢の皮膚には特に異常が見られなくても、陰嚢の皮膚に強い痒みが生じるようになります。

入浴の後で体が温まっている時や、睡眠中に起こるレム睡眠(浅い眠りの周期)によって体温が上昇した時には、ますます痒みが強くなる特徴があります。

睡眠中の陰嚢の痒みは、眠りを妨げるストレスになるため、思わず強い力で掻き毟ってしまったり、無意識に掻き続けてしまう事で、皮膚を傷付けてしまう場合があります。

そのようにして皮膚が傷付いて、掻破性湿疹と呼ばれる状態になると、皮膚が真っ赤に腫れたり、炎症が生じるようになるため、痒みの他にもヒリヒリとした痛みが生じるようになる事があります。

そして、お風呂に入る度に軽微な痒みが生じるようになったり、ヒリヒリとした痛みが生じるようになる場合があります。

陰部が蒸れて汗ばんでくると、痒みなどの不快感が生じやすくなりますが、陰嚢を保冷剤で冷やしたり、冷たいシャワーをあてる事で、痒みが軽減する事があります。

そのため、普段から通気性の良い下着を身に着けておくと、陰部が汗蒸れを起こしにくくなるために、ひどい痒みが生じにくくなり、陰嚢の皮膚を掻き壊す事が少なくなります。

市販薬の使用は、間違った薬を使用すると、かえって皮膚がかぶれたり、発赤や痒みなどの症状がひどくなる場合がありますので、薬局や薬店では十分相談の上で購入する必要があります。

射精した後、しばらくすると陰嚢に痒みが生じる事もありますが、これは精管や尿道などの精液の通り道に、一時的な強い内圧が生じたために起こる軽微な痛みによるものですので、保冷剤で冷やしたり、冷たいシャワーをあてるなどして、掻き毟らないように注意しながら時間をおくと、自然に治まるようになります。
陰嚢湿疹は、様々な原因が複合的に影響して起こる場合もあるため、はっきりと原因を特定できない場合もありますが、頻尿、残尿感、尿漏れなどの症状が見られる場合には、前立腺肥大症、膀胱頚部硬化症、尿道狭窄などの排尿障害の治療薬によって改善できる場合があります。

アレルギーによって皮膚の痒みが生じている場合には、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を使用する事によって症状が治まる場合がありますが、根本からアレルギーの症状を改善するには、食生活や生活習慣の見直しなども必要になります。

花粉の季節には、マスクや眼鏡を着用して、花粉の吸引量を少しでも減らしたり、室内をこまめに掃除したり、空気清浄機を使用する事で、室内のホコリやダニなどのハウスダストの吸引を防ぐ事も大切です。

飲酒や喫煙は、体に起こるアレルギー反応を過敏にして、症状をひどくすると言われていますので、控える必要があります。

また、香辛料や添加物の多い食事も、皮膚の痒みを強くする事がありますので、避けた方が良いと言われています。

そして、適度な運動と十分な睡眠時間を取るようにして、規則正しい生活習慣を送る事が大切です。

睡眠中に無意識に掻き毟ってしまう場合には、皮膚が傷付いてしまうため、なかなか治りにくくなってしまう事がありますので、掻き壊さないように手袋や軍手をして眠るようにしたり、爪をいつも短くしておく必要があります。

皮膚の常在菌の繁殖によって、痒みが生じる場合もありますので、陰部を常に清潔に保つため、通気性の良い下着を身に着けたり、陰部の汗や汚れをこまめに拭き取る事も、痒みを抑える効果が期待できます。

陰部の痒みを抑えるには、性器や肛門などの汚れが溜まりやすい箇所を清潔に保つ事も大切ですが、毎日の入浴の際に陰部を強く擦りながら洗うと、皮膚が傷付いたり、乾燥しやすくなる場合がありますので、皮膚を傷つけないように注意しながら優しく洗い、その後はボディーシャンプーや石鹸はしっかりとお湯で洗い流す必要があります。