「星草姫」

サラトニアの村に近いメナウの草原に、その草はありました。
その草は、星草(ほしくさ)と呼ばれるたいへんめずらしい草でした。
星草はピンク色の小さな花を咲かせて、月の光をあびていました。
星草には精霊が宿っていて、その小さな星草の精霊の名前は、星草姫(ほしくさひめ)といいました。
星草姫は星草の花にこしかけて、星空を見ていました。
星草姫のドレスは月の光にきらきらと輝いて、メナウの草原で光っているのです。
風が、流れました。
メナウの草原の生き物たちが、みんなして声を上げます。
人間が来る、人間が来る、人間が来る。
星草姫、お気をつけて。
メナウの草原は、静まり返ります。
人間がやって来ました。
サラトニアの村の青年、リーバリーという名前の男性です。
リーバリーは果物売りのとてもまじめな青年で、よく働く若者でした。
リーバリーは黒い髪に銀色の瞳をした男の人で、いつも旅人の服を着ているのです。
村の人たちは、村の服を身につけるようリーバリーに言うのですが、リーバリーはずうっと旅人の服を着ていました。
変わり者のリーバリー。
村の人たちは青年をそう呼んでいましたが、リーバリーの働きっぷりはたいそう村の役に立っていました。
メナウの草原に来たリーバリーは、すぐさま星草をみつけて歩みよりました。
月明かりのもと、メナウの草原は風の音もささやかです。
「┅┅やはり、星草だ。昼間に見たときは、はっきりと分からなかったが┅┅」
星草は月の光をあびると、少しだけぼうっと光るのでした。
リーバリーは、星草の近くにあおむけにねそべりました。
しばらく、リーバリーは無言で星空を見ていました。
星草姫が小さな声で、リーバリーに言いました。
「あなたは、遠くセランテ国の生まれでしょう。その髪、その瞳、その姿、魔法の国の人間のものではありませんか。┅┅ならば、私の声も言葉も姿も、何もかもを知っているのでしょう?」
星草姫は、リーバリーの答えの声を待ちました。
リーバリーは、星草┅┅星草姫を見つめます。
それはそれは、やさしく精霊を見たのです。
「ああ。知っているさ。美しき星草の姫さま。┅┅星草は、宝の草。どんな病気もなおす薬草で、その精霊はこの世のものとは思えないほどにキレイな宝石に姿を変える。セランテ┅┅オレのふるさとの人間なら、すぐにでも星草を王様にささげるだろうな。一生、遊んで暮らせるほうびが出るだろうよ」
リーバリーは、そこで目を閉じました。
「┅┅あなたの、お名前は?」
星草姫はリーバリーにたずねました。
「リーバリー▪アウティー▪ハイゼン」
リーバリーは、さらりとこたえました。
「まあ! あのハイゼン家のお方でしたか」
星草姫は、おどろきで目をまるくしました。
「そうさ。セランテの国でただ一人、精霊王と会った魔術師、クラステア▪ラウティー▪ハイゼンの孫。それが、オレだ┅┅」
リーバリーの目は、なぜかしら孤独にふるえる少年のようでした。
リーバリーは、星草姫にやんわりと告げます。
「┅┅オレは、旅をして来た。サラトニアの村の近くで、三十年前に星草が見つかったと知って、この村を調べて回っていた。オレには、どうしても星草が必要だ。┅┅オレの命の恋人、ルイスの病気をなおすために。ルイスをたすけたい。星草が、ほしいんだ」
星草姫は、リーバリーに質問をしました。
いくつかの、質問を。
リーバリーは心から恋人のルイスを愛している。
星草姫には、それがとてもよく伝わってきました。
月光をしばしながめて、星草姫はリーバリーに言いました。
「リーバリー。私を、ルイスに使いなさい。そうして、しあわせに暮らすのです」
リーバリーは、じっと精霊を見つめます。
「君は、消えてしまうぞ?」
星草姫は、すうっと涙をこぼしました。
「┅┅いいのかい?」
星草姫は小さく小さくうなずきました。
「ええ。あなたは、まっすぐな人。私は、あなたのおちからになりたい」
「ありがとう」
リーバリーは何度もためらって、星草にふれました。
「よいのです。手に取りなさい。私は┅┅」
リーバリーは、星草を手にしました。
星草姫は、消えてなくなりました。
星草の跡に、青い宝石が二つ残されています。
宝石言葉、永遠の恋。
その宝石は、ダリニヤと呼ばれる宝石でした。
リーバリーは、ダリニヤを大切にしまいました。
『あなたに、幸福を』
月の光になった星草姫の声が響きました。
リーバリーは、顔を上げて歩き出しました。



(おしまい)