「1992 Defense Planning Guidance (DPG)」は、アメリカ合衆国国防総省が1992年に策定した戦略文書で、冷戦終結後の新たな世界秩序におけるアメリカの安全保障政策を定義したものです。以下にその概要や背景、内容、影響について詳しく説明します。
背景
1991年のソ連崩壊により、冷戦時代に続いた二極構造が終わり、アメリカは唯一の超大国としての地位を確立しました。この時期に、アメリカの国防戦略を見直す必要が生じ、当時のジョージ・H・W・ブッシュ政権下で国防次官(政策担当)のポール・ウォルフォウィッツ(Paul Wolfowitz)を中心に1992年2月18日に初稿が作成されました。この文書は1994~1999会計年度の国防計画を指針とするもので、実質的にアメリカの長期的な戦略ビジョンを示していました。
主な内容
DPGの初稿には、アメリカの覇権を維持し、新たなライバルの台頭を防ぐための大胆な目標が含まれていました。以下にその要点をまとめます:
  1. アメリカの単独覇権の維持
    • アメリカが軍事、経済、技術の分野で世界一の地位を保持し続けることを目指す。
    • 「一極世界(ユニポーラー・ワールド)」を長期的に確保する。
  2. 潜在的ライバルの抑止
    • ロシア、中国、日本、ドイツなどの国々が地域覇権を握ったり、アメリカに挑戦する超大国に成長することを阻止する。
    • 特に旧ソ連圏でのロシアの再興を警戒し、その影響力を制限。
  3. 先制行動の容認
    • 脅威が顕在化する前に先制的な軍事介入を行う権利を主張。
    • 必要に応じて単独行動も辞さない姿勢を示す。
  4. 同盟国の管理
    • 日本やドイツなどの同盟国には一定の軍事力を認めつつ、それらが独立した戦略的主体として振る舞わないよう監視。
    • 多国間協力を重視するよりも、アメリカ主導の秩序を優先
  5. 軍事力の優越性
    • 圧倒的な軍事力を維持し、他国が追いつけない技術的・戦略的優位を確保。
これらの内容から、後に「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」と呼ばれることもあり、アメリカの強硬な一国主義的姿勢が色濃く反映されていました。
論争と修正
1992年3月、DPGの初稿がニューヨーク・タイムズにリークされると、国内外で大きな反発を招きました。批評家からは「帝国主義的」「傲慢」との声が上がり、特に欧州の同盟国からは多国間協力を軽視する姿勢への懸念が表明されました。この騒動を受け、同年4月16日にディック・チェイニー国防長官やコリン・パウエル統合参謀本部議長の監督のもと、文書は修正されました。修正版では、先制行動や単独覇権への言及が弱められ、国際協調や国連との連携が強調される形にトーンダウンされました。
その後の影響
1992 DPGは公式には短期的な指針でしたが、その思想は後のアメリカの外交・安全保障政策に影響を与えました。特に、ジョージ・W・ブッシュ政権(2001-2009)下での「テロとの戦い」や2002年の国家安全保障戦略(NSS)に、その片鱗が見られます。例えば、イラク戦争(2003年)における先制攻撃ドクトリンや、アメリカの単独行動主義は、1992 DPGの精神を継承したものと解釈されることがあります。また、作成に携わったウォルフォウィッツやリビーらが後にブッシュ政権で要職に就いたことも、この文書の長期的な影響を示しています。
現代的評価
DPGは、アメリカが冷戦後の「力の空白」をどう埋めるかを示した歴史的文書として研究されています。一方で、中国やロシアの台頭が現実となる現代では、アメリカの一極支配を維持するという目標が達成しきれなかったとの見方もあります。また、多国間主義を軽視した点は、今日の国際協調の重要性を考えると批判の対象ともなります。
 
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現在のアメリカにとって日本が「仮想敵国」であるかという問いに対しては、明確に「いいえ」と答えることができます。1992年のDefense Planning Guidance (DPG)で示されたような日本を潜在的なライバルとして警戒する視点は、冷戦終結直後の特殊な文脈に根ざしており、今日の状況とは大きく異なります。以下に、現代の日米関係とその背景を踏まえて説明します。
 
現代の日米関係
  1. 同盟関係の強化
    日本とアメリカは、1960年に改定された「日米安全保障条約」に基づく強固な同盟関係にあります。この条約の下で、アメリカは日本に駐留米軍を配備し、日本の防衛にコミットしています。一方、日本はアメリカのアジア太平洋戦略における重要なパートナーとして機能しています。2025年現在も、この同盟は両国にとって不可欠な基盤であり続けています。
  2. 共同の安全保障目標
    現代の地政学的状況では、中国の軍事力拡大や北朝鮮の核・ミサイル開発が日米双方にとって主要な懸念事項です。2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、インド太平洋地域での秩序維持がさらに重要視され、日米は共同で「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想を推進しています。2023年や2024年の首脳会談でも、両国は防衛協力を深める方針を確認しており、例えば統合抑止力の強化やサイバー・宇宙領域での連携が進められています。
  3. 経済的相互依存
    日本はアメリカにとって重要な経済パートナーであり、貿易、投資、技術協力で結びつきが深いです。半導体サプライチェーンやAI開発など、先端技術分野での協業も進んでおり、競争よりも協調が主流です。1992年当時、日本経済の急成長がアメリカにとって脅威と映った時期もありましたが、現在のグローバル経済では両国が互いに補完的な役割を果たしています。
1992 DPGの文脈との違い
1992年のDPGで日本が潜在的ライバルとみなされたのは、冷戦後のパワーバランスが不透明だった時期に、アメリカがあらゆる可能性を想定した結果です。当時、日本は経済大国として急成長し、軍事的潜在力を持つ可能性が懸念されていました。しかし、その後日本は「平和憲法」を維持し、防衛力は専守防衛に限定され、アメリカとの同盟を軸に安全保障政策を展開してきました。これにより、アメリカにとって日本は「脅威」ではなく「信頼できる同盟国」としての地位を確立しました。
アメリカの現在の「仮想敵国」
2025年時点でのアメリカの国家安全保障戦略(例えば、2022年のNSSやその後の更新に基づく)では、主な脅威として以下が挙げられています:
  • 中国: 軍事力の増強と地域覇権の追求。
  • ロシア: ウクライナ侵攻やハイブリッド戦争による不安定化。
  • 北朝鮮イラン: 核開発や地域不安定化リスク。日本はこれらの脅威に対抗するパートナーとして、アメリカと共同歩調を取っています。例えば、在日米軍基地は中国や北朝鮮への抑止力として機能し、日米共同訓練も頻繁に行われています。
結論
アメリカにとって日本は仮想敵国ではなく、最も重要な同盟国の一つです。1992年のDPGでの懸念は歴史的文脈に留まり、現代では両国の関係は戦略的パートナーシップに進化しています。もし日本がアメリカの政策において懸念されるとすれば、それは同盟国としての能力不足や独自の軍事力強化への躊躇い(例えば防衛費増額のペースなど)に関する議論程度で、敵対関係とは無縁です。