【1より引用続き】

吉岡:よく今回の地震、震災では「想定外だった」と言われます。
 津波の高さ、マグニチュード、震度。原子力発電所がどうなってるかというときに、東京電力の記者会見で「想定外でした」という言葉があったんです。
、すごく違和感を感じたんです。自然に対しての想定外ってのはそうですが。

玄侑:当たり前のことですよね。

吉岡:「人間は自然を超えられない」というのは当たり前のことです。ただ、ありとあらゆる危険を想定して、「だから安全ですよ」と言って原子力発電所をここ福島に持ってきた。
 それに対して「想定外でした」とは決して口が裂けても言ってはいけない言葉だと私は思います。

玄侑:「想定内であらかた収めよう」という最近の風潮が、もろにあそこに露呈したと思います。
 私は禅宗なんですが、禅の考え方からすれば、今日の夕方だって想定外です。毎日毎日想定外のことがあるし、無ければ面白くも何ともない。自然の中に生きてるとはそういうことです。
 シミュレーションで自然さえ想定できると思っている傲慢さが今回ぶち砕かれたということではないでしょうかね。

吉岡:福島にいらして、テレビも新聞も、1号機がどうだ、2号機がどうだと連日のようにやるわけですよね。事実をきちんと伝えるということが全くできてない。

玄侑:きちんとしたデータを示してくだされば、世界中に、データから分析できる学者たちがいっぱいいるわけです。
 ところが、直接的なデータを示さず、「直ちに健康に影響する数値ではありません」と。あれ、ああすることに決まってるんでしょうかね? 

吉岡:いやそうは思えない。いまデータと仰ってたのは事実のことですよね。
 「直ちに問題はありません」というのは、2つのことが一緒になっています。
「直ちに問題はありません、だから安心してください」というのは、事実と同時に、それを受け取った人たちにある行動を促しているわけです。
 事実と、こうすれば大丈夫、こうしなければいけませんと行動を促すことは、実は違うことなんですよ。しっかりと事実を押さえた上で、なおかつこれについてはあとは皆さんがご判断下さい、でいいんですよ。指示しなくたっていいんですよ。

玄侑:データそのものをはっきり示してもらいたい。そのために、始めから言ってくれないことが多すぎる。
 例えば、3号炉には「MOX燃料」(プルトニウムを含む核燃料)が使われている。プルトニウムというのがようやく最近(メディアにも)出てきましたが、3号炉のプルトニウムの危険性については始めから言われていました。
 3号炉がいわばチェルノブイリみたいなことになったらどうなるのか、という最悪のことも福島県民は割と感じていました。 ところがそのことがいつになっても出てこない。3号炉が水素爆発を起こした時点で(3月14日11時1分、3号機で水素爆発)、福島県民は「かなりヤバい」と思っていた。いったい水素爆発でどういうことになってるのか、もの凄く知りたかったし、危機感があったんです。

(玄侑さんが、オーストリア気象地球力学中央研究所「放射性物質の飛散予測」の資料を取り出す。)

玄侑:これは後になって出てきた資料ですが、当日15日の放射能の動きです。濃淡も示されています。
 一旦北西方向に向かい、それが南に下って広がっています。
 私ら福島県民からすると、1号炉、3号炉、2号炉が逝ったという時に、どの程度のものがもの凄く出てるのかということが関心事なんです。その時に調べてみると、こういうことになってるんです。

(「原発周辺の放射能測定値」の資料を取り出す。)

玄侑:空白なんです。第一原発正門付近の測定器が停電で壊れたと言ってるんです。翌日からずっと。
 13日、14日とずっと空白で、15日から(正門付近の数値が)ぽつぽつと出始める。 で、その時は今度はこっち(第一原発敷地内の別の計測地点と、大熊町の観測器)が壊れてると言うわけです。
 ちなみに、一番気になる15日の風向き。 これも午前2時からアメダスの風向きが消えるんです(気象庁によれば、原発周辺の観測機器は電源が確保できないため使用不能)。
 私らとすれば、風向き次第でどっちに飛ぶかが決まりますし、風の強さで何時間後にここに(放射能が)来るのかが分かるわけです。
 その判断のための材料が消されるんです。
 これがもし不安を煽らないためだとするならば、ちょっと言語道断だと思う。

吉岡:今何が起きているのかについての説明の仕方、どうしようとしているのかについても、何も伝わってこない。
 そこをメディアが一生懸命補強して解説するんですけれども、元々のデータがないから、そこはメディアにも限界があるんですよ。
 例えば、東京で見ていて、皆さん怒るだろうなと思ったのは、福島県の野菜。サンプルはほうれん草とかブロッコリーとか、1つか2つですよね。

玄侑:1つの行政で1品です。

吉岡:あれ聞いたときどう思いましたか?

(3月21日調べの「福島県産野菜の放射能汚染調査」資料を取り出す。)

玄侑:もう無茶苦茶な話です。
 私は即データをもらって見ましたが、本当にひどいです。
 第1回の調査では、会津地方を一切調べていません。
 例えば、問題のなかったところがあります。
 郡山市のキャベツは全く検出されてない。表の白いところは問題ないんです。
 天栄村のふきのとうも、全く検出されず(ND=検出されず)です。
 ところが、これを細かく言わないで、福島県全体の野菜、と言った(そして出荷停止になった)。
 そして、郡山から近い須賀川の64歳の農家の方がこの翌日に自殺したんです。7,500株の有機キャベツを置いたまま。あまりにも酷いですね。
 どうして福島県全体なのか。この時の(風の)動きを見たって、県の西側まで(放射能は)行ってないんですよ。会津地方の野菜は無事です。
 直接的なデータを示すべきです。ここでもさっきと同じで、細かいデータを示さずに、大丈夫とか駄目とか…。

吉岡:大雑把なんですよ。ある意味情緒的なんです。

玄侑:これ(先ほどのデータ)をもし見ていたらば、須賀川のキャベツのおじさんは亡くならずに済んでますよ。
 あまりこういう場合に、どこかに対する批判的な言葉はよくないという一般論は分かります。
 でも、原発の問題に関しては、そう言っていられない。まだ進行してるし、進行の仕方を修正しないと困ることがすごくあると思う。

吉岡:今現在の問題として。

玄侑:食の安全の問題は、多くの福島県の農業者たちが長年心がけてきたことです。 堆肥を作って、手間暇かけて、土を作って。で、食べて安全な野菜を、とやってきたわけですから。とにかく精密な土壌検査を県は急いでもらいたい。不安にさせないようにということかもしれないが、それは違う。
 隠されていることで不安は増えます。

吉岡:(不安は)増幅される。疑心暗鬼になる。

玄侑:疑心暗鬼ですね。

吉岡:それから、次に出てきた言葉が信用できなくなるんですよ。数値も。

玄侑:通常であれば、屋内退避は、何日か経って状況が改善されなければ、次の段階に移行するところでしょう。屋内退避がずっと続くと物資も供給されないし、ちょっとあり得ないことですよね。
 今回「自主的に避難することをお勧めします」という言い方を国からされましたけれども、非常に微妙な言い方です。
 実際はもう、ほとんどいなくなっている状態だったわけですが、「自主的に避難することをお勧めします」というのは、何か、「自己責任」と言われているような、非常に嫌な感じがしますね。

  * * *

 原発に通じる道。走るにつれて次第に車の姿もなくなっていく。

 避難した人がやむなく残していった飼い犬だろうか。紐をちぎって彷徨っていた。

 道の傍らで休んでいる男性に出会った。自宅に残した車を取りに避難所から原発近くの家まで40km以上の道のりを歩いていく途中だという。

「(仕事は?)
建築業。原発はやってない。木造建築。
(原発については?)最初から作るのは反対だった。危ないもん。われわれの時代にこうなるとは思わなかったがな。いつかこうなると思ってた。
(反対だというのは町では言えなかった?)ああ…。でも、これは国でやることだべ。下で何言ってもどうにもならん。…この辺も放射能強い?」

「強い。非常に強い。」

(車内にて吉岡さん。)

「19.99(μSv/h)。振り切れてる。いや~、怖い。ひどいな。車内で19.99ですよ」

 車を走らせるうちに、極めて放射線の値の高い谷間に入った。

「19.6(μSv/h)。周りの景色は、何となく森林浴で歩けるような風景じゃないですか。」

 ここに存在する放射線の量は、最低でも1時間当たり20マイクロシーベルト(20μSv/h)。東京の通常の値の500倍だ。

「これ振り切ったまんまだよ。やばいな…。」

 吉岡さんはここで避難民が身を寄せ合って暮らしている集会所があると聞き、訪ねた。

「集会所の前で19.99(μSv/h)。振り切っちゃってるからそれ以上です。」

(集会所に入る。)

吉岡「今車で放射線量を見てきましたが、中に入ると17~18μSv/h位。ずっと来る途中振り切れちゃって。結構な放射線量だなと思いますけど。ここは原子炉からどのくらい離れてるんですか?」

岩倉公子さん「27km。屋内退避圏です。」

吉岡「わりと避難区域では外側の方ですよね。皆さんはいつからここにいらっしゃるんでしょう?」

岩倉公子さん「12日からです。地震が3月11日2時46分。12日の晩からいますので、18日目です、今日で。」

池田トシ子さん「ここに行けば、食べ物もあるし何とかしてくれるから行きなさいって言われて来た。
 その時150位の人がもう大勢いましたね。私たちはこれ(犬)がいるから車で寝てましたね。」

池田誠一さん「ここは最高200人いた。もう全員避難したんですよ、バスでね。俺はペットがいるからじゃ残るって。」

池田トシ子さん「ここに残った人たちは…」

吉岡「それぞれ事情がある。聞かせてください、その事情を。」

池田トシ子さん「これ(犬)置いて向こうに行ったら、中にはもちろん入れないし、車の中で寝なきゃならない。
 それよりまずガソリンが無かったんですよ、みんな。ガソリンもない、ペットもいるということで、じゃあ、屋内退避ならばここで。食べ物もある程度あったし。だから、いることになって。」

佐藤雄一さん「私はもう燃料が無くて、真っ暗になってからとぼとぼ上ってきたんです。車で。できるだけ燃料減らさないようゆっくり来たんです。
 AMラジオ聞きながら上がってきたんですけども、どうしても電波が悪くて。たまたまその辺りで電波が良かったので、この下の石井商店さんのところでぐるっと回って、一晩ここで野宿しようかなって考えてたら、ここの光が見えたんです。その時は車の中で。大勢いた時は。」

 後ろ髪を引かれて自宅から離れられ切れない人もいる。

岩倉文雄さん「遠くへ行けない事情が私もありまして。犬と猫のペットを(家で)飼ってるんです。来るときにエサをいっぱいあげてきたんですけど、帰れるところにとどまろうという考えがあったんです。現在も4日位ごとにエサやりに帰って。さっと帰ってきて。」


【3に続く】