『危険な話』第2章P68~P74
広瀬隆さんの名著『危険な話』(1987年4月26日第1版第1刷発行)から、一部引用します。
(引用始め)
南太平洋のデータ
新聞の紙上には、『降り注いだ死の灰は水爆実験にも匹敵』、 というような記事が出てまして、かつての原爆実験、水爆実験との死の灰の比較がおこなわれています。私たちもやってみましょう。
ここにあるのは全世界の各地でおこなわれた核爆発の記録写真ですが、一番下のものが南太平洋のビキニでおこなわれた原爆実験の写真です。この原爆実験のあとにやってきた悲劇の体験は、私たちが自分のことを考えるとき、おそろしいほどチェルノブイリの被害の深刻さを教えてくれます。ビキニ諸島のたとえばロンゲラップ島に住んでいた人たちに、甲状腺の障害が多発しています。さきほど申し上げた豊崎さんの話を絵に書いてみましょう。グラフで見るとすぐ分るのですが、この人たちの甲状腺に障害が発生したのはいつぐらいかと言いますと、核実験をやってから何年目かをグラフの横軸に数字を入れて示したとおり、9年目ぐらいにようやくその住民の間に出はじめたのです。
原因となったヨウ素は、半減期8日間の、寿命としては特に短いものでしたね。比較的安全と思われるものです。ところがそのわずか何日間かで甲状腺に濃縮が起こったというだけで、細胞が受けた傷が、はるかあと、9年後になって、その島の人の甲状腺に障害を起こしはじめました。ですから私たちが今、全世界の人間がちょうど時限爆弾を体に飲み込んだ状態にある、と言ったのはその意味です。
いまソ連の人が元気そうに見えても、九年後ぐらいから甲状腺の障害は間違いなく目に見えてくるようになります。それは今度チェルノブイリから出たヨウ素の量を推定すると、100パーセントと考えられるので、ソ連とヨーロッパの子どもたちに深刻な影響が出ることは避けられません。
ビキニの場合は九年後から分りはじめまして ―― 勿論それ以前から障害は出ていたのでしょうが、最初に発見されたのがその頃です――ほぼ15年後ぐらいになって一斉に発生しはじめ、ほとんどの人が倒れたのです。腫瘍やガンができたのです。ガンはこれを取り除かないと生きていけません。手術で甲状腺を取り除きます。そうすると今度はホルモンが分泌できなくなるので、ホルモン剤を注射しながらかろうじて生きているというような状態です。
時限爆弾は、甲状腺に仕掛けられているだけではありません。豊崎さんの最近のデータを見てみましょう。ビキニから180キロも離れたロンゲラップ島で、勿論ここは安全地帯と言われていたのですが、その核実験が行なわれてから29年目、1983年のデータで言いますと、実に28パーセントの人がガンや白血病などのさまざまな、今までその島で絶対に見られなかった病気で死亡している。実に三分の一近くの人がガンなどの病気で死亡しているという統計が出てきておりまして、しかもこのグラフがまだ上がりつつある。このグラフは40年後にピークがあるだろうと言われています。日本の人口は1億2000万人ですが、ロンゲラップ島の住民と同じように死の灰を受ければ、その28パーセントですから3000万人以上がガンで死亡する。3360万人です。こういうことが南太平洋で実際に目の前で、たったいま起こっている。まだ4年前ぐらいの統計ですよ。この島の人口が少ないために、世界じゅうの人がこの問題を軽く見ていますが、別の見方をすれば、皆さんに28パーセントの意味が分るでしょう。この数字は、四人家族のうち必ずひとりが殺される。それほどおそろしい事実を示しているのです。
それからもう一つは女性の場合ですが、死産や流産、生まれてくる赤ちゃんが死亡しているなどの出産障害がひじょうにたくさん起こった。また、生まれた子どもがさまざまな障害を持っていた。たとえば目がひとつしかない単眼症や、心臓がひどく弱いといった、遺伝的な影響が並行して起こっています。

(引用終わり)
(引用始め)
南太平洋のデータ
新聞の紙上には、『降り注いだ死の灰は水爆実験にも匹敵』、 というような記事が出てまして、かつての原爆実験、水爆実験との死の灰の比較がおこなわれています。私たちもやってみましょう。
ここにあるのは全世界の各地でおこなわれた核爆発の記録写真ですが、一番下のものが南太平洋のビキニでおこなわれた原爆実験の写真です。この原爆実験のあとにやってきた悲劇の体験は、私たちが自分のことを考えるとき、おそろしいほどチェルノブイリの被害の深刻さを教えてくれます。ビキニ諸島のたとえばロンゲラップ島に住んでいた人たちに、甲状腺の障害が多発しています。さきほど申し上げた豊崎さんの話を絵に書いてみましょう。グラフで見るとすぐ分るのですが、この人たちの甲状腺に障害が発生したのはいつぐらいかと言いますと、核実験をやってから何年目かをグラフの横軸に数字を入れて示したとおり、9年目ぐらいにようやくその住民の間に出はじめたのです。
原因となったヨウ素は、半減期8日間の、寿命としては特に短いものでしたね。比較的安全と思われるものです。ところがそのわずか何日間かで甲状腺に濃縮が起こったというだけで、細胞が受けた傷が、はるかあと、9年後になって、その島の人の甲状腺に障害を起こしはじめました。ですから私たちが今、全世界の人間がちょうど時限爆弾を体に飲み込んだ状態にある、と言ったのはその意味です。
いまソ連の人が元気そうに見えても、九年後ぐらいから甲状腺の障害は間違いなく目に見えてくるようになります。それは今度チェルノブイリから出たヨウ素の量を推定すると、100パーセントと考えられるので、ソ連とヨーロッパの子どもたちに深刻な影響が出ることは避けられません。
ビキニの場合は九年後から分りはじめまして ―― 勿論それ以前から障害は出ていたのでしょうが、最初に発見されたのがその頃です――ほぼ15年後ぐらいになって一斉に発生しはじめ、ほとんどの人が倒れたのです。腫瘍やガンができたのです。ガンはこれを取り除かないと生きていけません。手術で甲状腺を取り除きます。そうすると今度はホルモンが分泌できなくなるので、ホルモン剤を注射しながらかろうじて生きているというような状態です。
時限爆弾は、甲状腺に仕掛けられているだけではありません。豊崎さんの最近のデータを見てみましょう。ビキニから180キロも離れたロンゲラップ島で、勿論ここは安全地帯と言われていたのですが、その核実験が行なわれてから29年目、1983年のデータで言いますと、実に28パーセントの人がガンや白血病などのさまざまな、今までその島で絶対に見られなかった病気で死亡している。実に三分の一近くの人がガンなどの病気で死亡しているという統計が出てきておりまして、しかもこのグラフがまだ上がりつつある。このグラフは40年後にピークがあるだろうと言われています。日本の人口は1億2000万人ですが、ロンゲラップ島の住民と同じように死の灰を受ければ、その28パーセントですから3000万人以上がガンで死亡する。3360万人です。こういうことが南太平洋で実際に目の前で、たったいま起こっている。まだ4年前ぐらいの統計ですよ。この島の人口が少ないために、世界じゅうの人がこの問題を軽く見ていますが、別の見方をすれば、皆さんに28パーセントの意味が分るでしょう。この数字は、四人家族のうち必ずひとりが殺される。それほどおそろしい事実を示しているのです。
それからもう一つは女性の場合ですが、死産や流産、生まれてくる赤ちゃんが死亡しているなどの出産障害がひじょうにたくさん起こった。また、生まれた子どもがさまざまな障害を持っていた。たとえば目がひとつしかない単眼症や、心臓がひどく弱いといった、遺伝的な影響が並行して起こっています。

(引用終わり)