ひとつ前の当ブログで、2018年2月21日に亡くなった大杉漣さんが、『ソナチネ』(1993 北野武監督)のオーディションに遅刻しながらも採用されたという有名なエピソードを書きました。

以後、北野武監督作品の常連となって、多くの人に知られる俳優になっていきました。この『ソナチネ』のときには大杉さんは既に40歳をこえていましたので遅咲きと思われるかもしれませんが、芸歴は古く、1974年に大学生だったときに「転形劇場」という劇団に入り活動していました。いわゆる「アングラ」といっていいでしょう、舞台上をただ歩いて、滴り落ちる水を飲むだけというような沈黙劇を演じていたとテレビ番組で話しておられました。その演劇活動と並行して1980年からはピンク映画に出演されるようになります。

80年代の大杉さんはピンク映画に多く出演され存在感を発揮されていました。有名なところでは『変態家族 兄貴の嫁さん』(1984 周防正行監督)があります。小津安二郎監督の作風を完コピしたピンク映画で、大杉さんは祖父の役(つまり、小津作品の笠智衆さんのパロディです)で33歳の大杉さんが見事に老人役を演じていました。たしか、大杉さんは笠さんを大変尊敬していると聞いたことがあるので、役づくりに力が入ったのかもしれません。

僕はそんなにたくさん観ているわけではないのですが、のちに名画座で観た『連続暴姦』(1983 滝田洋二郎監督)は非常に印象に残っています。大杉さんが演じるのはレイプ魔で、普段は映写技師をしているという役でした。姉を犯し殺害した大杉さんの正体を突き止め復讐するヒロインの話でしたが、たしか犯人だと分かるのが、落ちていた手袋で「映写技師がフィルムを扱うときに使う特殊な手袋」だったのが決め手になったと思います。

この映画の舞台になったのが「上板東映」という名画座で、当時僕の住んでいた家から徒歩3分ぐらいの場所にあったので当然入りびたっていましたから、「上板東映」が閉館したあとにこの『連続暴姦』で館内が映し出されたときは懐かしくてたまりませんでした。大杉さんが普段いる映写室から無人の客席におりてきて、正体に気づいた女子従業員を絞殺するシーンがありましたが、大杉さんの迫力ある演技とともに、「ああ、この客席に座っていろんな映画を観たっけなあ……」という感慨にもおそわれてしまうのでした。  (ジャッピー!編集長)

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