日本語教師養成講座に通っていた頃、同じクラスの人と「『捕まる』と『捕まえる』の違いって何だろう?」という話になったことがあった。その時は、意味はわかるけど何だかモヤモヤしてうまく整理できなかった記憶がある。

 

結論から言うと、「捕まる」は「自動詞」で、「捕まえる」は「他動詞」。

 

「どろぼうが警察に捕まる」(自動詞・グループ1・五段活用)

「警察がどろぼうを捕まえる」(他動詞・グループ2・下一段活用)

 

のように使い分ける。この自動詞と他動詞の区別に限らないんだけど、「コレとコレどう違うんだろう?」となった時、その単語の「意味」だけで考えるとわからなくなることがある。「どろぼう『が』捕まる」(自動詞)、「どろぼう『を』捕まえる」(他動詞)のように、文を作ってみるとわかりやすい。

 

日本語を学習している(した)人で、かなりのレベルになっていても、この自動詞と他動詞の使い分けが不完全な人は意外と多い。知り合いの知り合いで、日本語がすごく上手な外国人がいて、会ったことはないんだけど、その人がラジオに出てるのをたまたま聞いたことがある。インタビューに答えてたんだけど、ほぼ完ぺきなのに、自動詞と他動詞だけ間違えてた。

 

日本人が「日本語の難しいところ」としてイメージするのは「敬語」や「漢字」だと思うんだけど、個人的にはそれより自動詞・他動詞の方が難しいというか、厄介な気がしてる。面倒と言ってもいいかもしれない。原因としては、自動詞と他動詞の組み合わせに「コレさえ覚えればOK」というルールみたいなものがないからかなぁと思ってる。動詞の分類には、以前書いたようにルールがあって、見ただけでもかなり分けられるけど、自動詞・他動詞にはそういうのがない。

 

それから、日本語を母語とする人でも、以前の私のように、「捕まる/捕まえる」の違いについてよくわかっていない人が多いのも関係あるかもしれない。学習者が会話で「捕まえる」を使うべき時に「捕まる」を使ったとしても(また、その逆でも)、その場では通じてしまい、聞いた人は瞬間的に「ん?何かおかしい?」と思うだけのことが多い。会話がどんどん流れて行ってしまうと、指摘しないままになってしまい、言った人も指摘されないので間違えたことに気づかず、そのまま固定してしまうのではないかと思う。

 

初級の教科書に載ってる「自動詞/他動詞」のペアとしては、

 

開く/開ける

閉まる/閉める

切れる/切る

出る/出す

入る/入れる

 

などがある。まず大事なのは、「開ける」は「開く」が語形変化したものではなくて、「開く」と「開ける」は別の動詞だということ。辞書にもそれぞれ見出し語として載ってる。ここを誤解してる人がたまにいる。同じ動詞で形が違うものと勘違いして、頭が混乱してしまうことがある。

 

学習者はこれらの単語を覚える時、まず、どっちが自動詞でどっちが他動詞かを覚えなければならない。動詞のグループは見分け方があるけど、自動詞か他動詞かは見ただけではわからない。それに、例えば英語に訳すとどっちも「open」になってしまうんじゃないかな。それで「なんでわざわざ区別するんだ!?」とか思ってしまい、余計大変なのかもしれない。

 

上の例だと、「自動詞」の「開く」は「開かない、開きます、開く、開けば…」のように変化するのでグループ1(五段)、「他動詞」の「開ける」は、「開けない、開けます、開ける、開ければ…」のように変化するのでグループ2(下一段)。他のペアは、「閉まる(1、五段)/閉める(2、下一)」「切れる(2、下一)/切る(1、五段)」「出る(2、下一)/出す(1、五段)」「入る(1、五段)/入れる(2、下一)」となる。つまり、「自動詞ならグループ1」みたいなルールがないということ。

 

「閉まる/閉める」「止まる/止める」や、「汚れる/汚す」「壊れる/壊す」のように、形が似ているものもあるけど、こういうのをグループ分けして覚えるより、一つ一つ覚える方が結局ははやいというか現実的なのかなと思う。

 

ちなみに、「文化初級日本語」だと、全34課ある中で、自動詞と他動詞について学ぶのは26課。初級の中でも後の方なので、やはりそれなりに難しいという判断なのだと思う。