おとうさん。おはよう。

  もうすぐ。『重陽の節句』が、やってくるよね。

   『十日の菊に、六日の菖蒲(あやめ)』って。いうんだけど。

   どんなに、いい菊だって。間に、合わなければ、ようなし、なんだよね。

  それこそ、何度。重陽の節句が、やってこようと。

   我が家に、とっては。今更なんだよね。おとうさん。

  「おとうさん。菊酒を、飲むと。長生き、するんだって。」ってね。

   菊酒を、作っても。役に。たたないん、だものね。

  おとうさんの、ことだから。そんな、私の気も、知らないで。

   「わしは、菊酒より。フグの、ヒレ酒が。ええなあ。」って。

   いうんじゃあ、ないでしょうか。ねえ、おとうさん。

  おとうさんは。夏でも。

   『わしは。冷よりも、熱かんが、ええ。』って、いうような。

   そんな、人だったよね。

  だから。お店で。フグのヒレを、見つけると。

   「これ、買うてかえろう。」いうて。買ってきて。

   「熱かんもらおうか。」

   「ヒレは。よう、あぶって、くれや。」いうて。

   熱かんに、ヒレを。ひたしてね。のんで、いたんだよね。おとうさん。

  そうそう。息子が。クラブの、試合で。初めて、九州に行った時も。

   「オトン、みやげは。」って、聞かれて。

   「フグの、ヒレ。」って。行ったんだよね。おとうさんは。

   「わたしは。なんでも、いいよ。」って、言ったら。

   タラコの、キイホルダーを。買ってきて、くれたんだよね。

    いつも、わたしが、持って、歩いている、やつだよね。おとうさん。

   キイホルダー見てて。思い出しましたよ。おとうさん。

  今年はね。重陽の節句には。どこかで、フグの、ヒレを。買ってきて。

   『フグの、ヒレ酒』を。つくって、あげましょうか。

   菊酒では、なくてね。おとうさん。

  『十日の、菊では。立ち枯れる』って。言われるけど。

  フグの、ヒレ酒なら。いいよねえ。

   大満足、なんじゃあ。ないですか。おとうさん。

     ねえ、おとうさん。