おとうさん。セミが、鳴きましたよ。
ツルの、一声とは。よく、聞きますが。
セミの、一声なんて。あるんで、しょうかねえ。
朝。「ミーン、ミーン。」と、一声あげたと、思ったらね。
「あっ、セミや。」って、言う間もなく。鳴きやんで。しまいましたよ。
あのセミ。ちょっと、この、暑さで。先走って。しまったのか、しらねえ。
秋口に、取り残されて。鳴いているのも。さみしいけれど。
先走って、出てきても。一匹では。寂しい、ものですよ。ねえ。
暑いときには。熱いものをと、思ってね。
お昼は。ハヤシライスに、しましたよ。おとうさん。
汗を、ふきふき。これも、いいものですねえ。
それから。コップの、中で。
「カラン。コロン。」と。氷の、音を。響かせながら。
冷たい。例の、乳酸菌飲料を、飲みましたよ。おとうさん。
「わしらが、若い時。恋人の、味。言われとったんじゃ。」いうて。
おとうさんが、言ってた。あれですよ。
わたしたちが。子供の、ころは。乳酸菌飲料と、言えば。
あれが、定番だったよねえ。おとうさん。
でも。親が、作ってくれるのは。うすめで、ねえ。
今は、五倍とか。書いて、あるんだけど。
あのころは、何倍だか。忘れたけどね。
実際は。もっと、もっと。薄かったように、思うよねえ。
それでも。おいし、かったよね。おとうさん。
そういえば。おとうさん。いつだったか。簡単ケーキだよって。
あの、乳酸菌飲料と。粉だけで。牛乳パックに、流しこんで。
パウンドケーキ、作ったこと。あったよねえ。
「おとうさん。恋人の、味やで。」言うたらね。
「これは。おまえの、味じゃ。」言うて。
照れ笑い、してたよね。おとうさん。
私たちにも。あんな、若いころも。あったんだよね。おとうさん。
きょうは。久しぶりに。
あれで、カップケーキでも。作りましょうか。ねえ、おとうさん。
むかしに、もどって。あの頃のように。
『恋人の、味を。』楽しみましょうよ。
たまには、いいでしょう。
ねえ。おとうさん。