おとうさん。せっかく、冷蔵庫。大きめのを、買ったんだよ。

   聞こえてますか。なんとか、いいなさいよ。

   その、へんに。いるのなら。

   いくら。文句を、言ったて。なしの、つぶてだよね。おとうさんは。

  元気だった、ころは。

   今頃の。季節に、なるとねえ。

  「買いに、行くか。」いうてね。

   あそこまで。車を、とばして。二人で、行ってたよねえ。

  「おとうさん。これどんな。」って、聞くと。

  「そうじゃなあ。」

  「分からんけど。」

  「たたいて。ええ音、しとったら。ええいうけえ。」いうて。

   平手で。ポンポンと、たたいてね。

  「そっちのが。大きいなあ。」

  「いや。こっちやわ。」って、言いながら。

   おおきな、箱に。山積みしたある。スイカの、なかから。

    大きなのを。選び出してね。

    ひとつ、まるごと。買ってきて、いたんだよね。おとうさん。

   毎日。クラブから、帰ってきて。お水代わりに。食べる、ものだから。

    あっと、言う間に。なくなってね。

    ひと夏の、うちに。何個も。買いに、行ってたよねえ。おとうさん。

  おとうさんは。もう、いないのに。ねえ。

  冷蔵庫が、壊れて。息子と、買いに行った日。

   「おかん。どれにする。」って。息子に、言われた時。

   「スイカが、入れば、ええなあ。」ってね。

   スイカの、ことばかり。考えて、いたんだよね。

    おかしいよねえ。おとうさん。

   あんな、大きな、スイカ。半分にして。入れることなんて。

    もう。この先、ないだろうにねえ。

   つい。スイカのことを、考えて。しまってたんだよね。おとうさん。

  そのくせねえ。おとうさん。八百屋で。切り売りを、見る度に。

   買えば、いいものを。買えませんよ。おとうさん。

  「おとうさんに、食べさせて、やりたいねえ。」

  「おとうさんと・・・・」と、ねえ。

  なんて。次から、次に。思いだして、しまってね。

   つい、つい。買いそびれて。買わずに、帰って、くるんだよね。

  「おとうさん。この、スイカ、おいしいよ。」って。

   言える、までには。もう少し。時間が、必要かなあ。おとうさん。

  そのうちに。

  「おとうさん。どんな。」

  「よう、冷えとるじゃろう。」って。いいながら。

   思い出話が、できる、日が、きたら。

  あそこまで、行って。

  冷蔵庫、いっぱいの。

   大きなスイカを。買って来て、あげるからね。おとうさん。

  冷蔵庫の、空きスペース。見てる、だけでは。悲しく、なるもんね。

    ねえ。おとうさん。