おとうさん。おはよう。

  きょうも。雨ですよ。よく降りますね。

  そろそろ、小学校では。プールが、始まるんじゃ。ないでしょうかねえ。

   プールの。掃除が、始まると。我が家の、次男。

   いつも。お土産を、持って。学校から。帰って来たん、ですよねえ。

  「おかあさん。ほら。」ってね。

   ちいさな、ヤゴですよ。ねえ。おとうさん。

  「きょうは。プールの掃除を、するんやで。」

  「おかあさん。空きびん。」いうて。

   嬉しそうに。学校に、行った日は。

   あっち、こっち。泥をつけて。帰って、くるんだけど。

  「これ。もろうたんや。」いうて。

  そしたら。

  「今年も。うどん屋さんに、頼んで、みるか。」いうてね。

  おとうさんが、行きつけの、おうどん屋さんに。

  「少し。苗、もらえるかなあ。」いうてね。

   頼んで、くれて、いたんだよね。おとうさん。

  そしてね。ベランダに。発泡スチロールの、箱を置いて。

   我が家の、田植えが。始まるんだよね。

  「ことしは。もう、田植えが、終わったで。」言われたら。

  モミを。もらって、来て。植えることも。あったけどね。

   とにかく。田んぼ、だけは。毎年。作って、いたんだよね。おとうさん。

  毎朝。発泡スチロールの中は、見てるんだけど。

   いつの、間にか。

   勝手に。トンボに、なって。飛んで行って。いなくなっていてね。

  「これ。トンボの、抜けがらや。」いうて。残念がってね。

  それでも。たまに。

  「きてみ。ほら、トンボやで。」いうて。

   殻から、出てきたばかりの。トンボを。見ることも、できたんだよね。

  なんでも、同じ。一生懸命、育てたからと。いって。

   我が思いの、ままに。ならないのは。

   人の世と、いっしょだよね。おとうさん。

  「あの、トンボ、どうしたんやろ。」って。

   抜け殻を、みながら。こどもたちは。心配してたけどね。

  どんなに、心配しても。飛び立って、行った。トンボの、後を。

   追いかけては。いけないん、だよね。

  大空に、飛び立って、行った。我が家の。息子たちも、おんなじで。

   自分の、力で。飛ぶしか、ないんだよね。おとうさん。

  それは。あの時。トンボが、わたしたちに。教えてくれた。

   ことかも、しれないよね。 ねえ、おとうさん。