おとうさん。おはよう。

  タチアオイは。梅雨アオイと、呼ばれる、だけあって。

   下の枝に。ピンクの、花を。つけ始めましたよ。

  あの、花が。上の方に。花を、つける頃は。

   梅雨明けに。なるんで、しょうなねえ。おとうさん。

   それにしても。よく、降りますよねえ。

  そうそう。この間、珍しいものを。見つけましたよ。

   『はったい粉』ですよ。おとうさん。

   裸麦で、作った。麦こがし。田舎では、『はったい粉』ですよね。

  以前。どっかの、スーパーで、見つけた時は。

   「おとうさん。珍しいやろ。」言うてね。

   買って来て。二人で、おおいに。

    むかし話で。盛り上がったこと。あったよねえ。おとうさん。

  「これなあ。お椀に、入れて。」

  「お湯いれて。砂糖いれて。一緒に、こねるねんよ。」

  「甘いもんが、ない時。ほんまに、おいしかったよね。」いうたら。

  おとうさん。突然、ふきだして。思い出し笑い、するんだもんね。

  「どうしたん。」いうたら。

  「おぼえとるか。」  

  「はったい粉と、砂糖と混ぜて。紙に包んで、もろうて。」

  「麦わらの、ストローで。吸ようったんを。」

  「おぼえとるで。よう、やったもん。」いうたら。

  「友達、なんにんかで。あれもって。食うとったんじゃ。」

  「そしたら。一人の、やつが。」

  「きゅに、おもしろいこと。言い出して。」

  「つられて、笑ろうたら。」

  「吸いかけ、とったのに。吹きだして。」

  「顔じゅう。真っ白に。なってしもうた、ことがあるんじゃ。」って。

   おとうさん。言って、たんだよね。

  甘い物の。少ない時代に、育った。私たちには。忘れられない。

   おいしい、おやつ。だったんだよね。

   『はったい粉』はね。おとうさん。

  きょうは、久しぶりに。お湯で練って、食べようかな。

   むかしを、懐かしみながら。ねえ、おとうさん。

   残りで、『げんこつ飴』を、作ろうか。

   それとも。クッキーでも、作りましょうかね。おとうさん。

  おとうさんが、やってたように。

   ストローで。吸って、みるのも。いいよねえ。おとうさん。

  だけど。おとうさんの、失敗談の、ように。

   ふき出さないよう。気を、つけないとね。

    ねえ、おとうさん。