おとうさん。買い物に、行く。あの道。

   橋から。手を、伸ばすと。ハクセンボクの、白い花に。手が、届くんだよ。

    むせるような、いい香りでね。

    嫌なことも。どこかに、行って、しまいますよ。

  『見ようと、しなければ。見えず。』とは、まさに、このことだよね。

   橋の、反対側の、歩道からも。あんなに、真っ白に、見えるのに。 

   この木は。いままでも。ここに、立ってて。

   今頃の、季節に、なったら。今のように。

   真っ白な。花を、咲かせて。

   むせかえるような。香りを。放って。いたん、だろうにねえ。

   ちっとも。気づかな、かったんだよね。わたしは。

  おとうさんと、わたしも。そうかも、知れないよねえ。おとうさん。

  なんでもが。当たり前の、ように。済ませてね。

   立ち止まって、見れば。お互いのこと。

   分かって、いるようで。どこまで。分っていたん、でしょうかねえ。

  おとうさんが。あの世に、いって。思い出を。たどって、いて。

   はじめて。気づかされたり、することも。あったりしてね。

   以前は。見えなかった、ものが。見えたり、するんですよね。

   それが、みんな。いいように、見えるん、ですから。

    これまた。不思議、なんだけど。

  あの世に、行った人は。良く見えるって、いうけれど。

   ほんと。思いだすのは、いいことばかり。楽しかった、思い出ばかり。

   くやしいけどね。おとうさんの、いいとこ、ばかりですよ。おとうさん。

  映画の、中の。だれかさんの、ように。

   家族には。「やめとけば、ええのに。」と。陰口を。たたかれ、ながらも。

   気が付いたら。人の世話を、やいていてね。

   夫婦げんかも、したし。

   息子たちとも。バトルを、戦わせた、はずなのに。

  私たちの。思い出の、中に。残っている、おとうさんは。

   やっぱり。あの、ニコニコした。笑顔なんだから。

    ほんと、不思議だよね。 ねえ、おとうさん。