おとうさん。おはよう。

  きょうは。朝は、コーヒーを、たてましたよ。どうですか。

  おとうさんが、元気だったら。台所に、来るなり。

   「ええ、においじゃ、のう。」って、いうでしょうねえ。

   そう思って。おとうさんにも。

   「はい。いっぱい。」ですよ。

  きのうは。キュウバタンで、寝たようで。

   耳もとで。懐かしい、映画音楽。慌てて、飛び起きたら。夜中でしたよ。

   なぜか。それから。子供の時見た、ドラマの歌や。

    息子たちと、見た。アニメの歌が、かかるもので。

    ついつい、聞いて。しまいましたよ。おとうさん。

   だから、きょうは。コーヒーなんですよ。笑えますよねえ。

  ついつい。思い出に、したっていたら。

   変なこと、思い出して。しまいましたよ。おとうさん。

  我が家では。なにか、たのむと。

   「ありがとう。」って、いうのにね。

   おとうさん、言ってたのか、なってね。

  息子達には、どうだったか、知らないけど。

   わたしには。いちども。「ありがとう。」って、言わな、かったものね。

  「おい、それ。」って、言われて。わたせば。

   当たり前のごとく。だまって、うけとってね。それで。ことが、終わり。

  それが、入院したら。

  「ありがと。ありがと。」だものね。

  わたしが、何か、持って行くと。社交辞令の、ように。

  「ありがと。ありがと。」と、二度繰り返してね。

  おとさん。言ってたよね。

   そしてねえ。

  「病院では。なんでも、ありがと、ありがとや。」いうて。

   悲しそうな、顔してたことも。あったよね。

  もう。忘れて、しまったけど。

   遠い、むかしに。だれかに、言われたこと。あるんだよ。

   『ありがとう』は。一回、言うもんじゃ。

   『ありがと、ありがと。』と、言うもんじゃない。

   礼は。心を、込めて。『ありがとう』って、なあ。

  なぜか。あの、言葉を。思い出して、しまったよ。おとうさん。

  「無理が、言えるは、お前だけじゃ。」って、言ってた。

  おとうさんの。本当の、意味での。わたしへの、感謝の言葉は。

   「おおきに。」だったんだよね。おとさん。

  昭和男児を。地でいってた、人だものね。おとうさん。

   なかなか。あの言葉が、口に。でなかったん、だよね。

  でもね。それなのに、おとうさん。

   「おきに、おおきに。」ってね。

   息絶えるまで。言い続けて、いたんだよね。あの日はね。

  もしかして。一緒に、歩んできた。年数分、だったのかなあ。

   あれは、ねえ。おとうさん。

  あの、日のこと。思い出して。

   きょうは。朝から、また。泣いてますよ。

    ねえ。おとうさん。