おとうさん。出てきましたよ。ハエ帳、別名『ハエいらず』ですよ。

   冷蔵庫の、うえに、置きふるし。

   でも。使ってないから。まっさらだよ。おかしいねえ。

   あれ、買ってから。何年に、なるかしらね。

  「おとうさん。珍しいもんが、あるよ。」いうてね。

  今は、マンションに、なっている。場所に、あった。スーパーでね。

   投げ売りセールを。やっててね。その時。売って、いたんだよね。

  あの時でも。使うことも。少なくなって、いたんだから。

   今。息子たちに、みせたら。

   「これ、なんや。」って。

   いうだろう、ねえ。きっと。おとうさん。

  「子供ん時は。冷蔵庫は。なかった、けえのう。」

  「余った、おかずは。皿に、いれて。」

  「『ハエいらず』の、中に。入れとった、じゃろう。」

  「風通しが、ええけえ。いたまん、ように。いうて。」

  「ハエは、入らんかったけえ。えかったけど。」

  「アリンゴだけは。どうにも。ならんかったのう。」

  「そういやあ。『飯カゴ』いうのも。あったのう。」

  「飯が。すえたら、あかんけえ。いうて。」

  「あれに。飯を、いれとったんじゃ。」

  「そしたら。そん中に。よう、アリンゴが、はいっとったんじゃ。」

  「アリンゴは、力があるけえ。食うても、ええ。いうて。」

  「少々。アリンゴが、おっても。」

  「飯を。食わされた、ことも。あったわ。」いうてね。

  二人で。子供の時の。思い出話を、しながら。

   あの、店で。買った、やつですよ。おとうさん。

  こっちに、来てからは。マンション、なんだものね。

   ありがたいことに。ハエには。お目に、かからないん、だものね。

  だから。使いそびれて。しまったんだよね。

  『ハエいらず』このままでは。もったいない、でしょう。

  今は。なんでも。冷蔵庫、なんだけどね。

   朝の、残りは。昼までならば、大丈夫だものね。

   冷蔵庫では。冷えすぎて、困るしね。

  ひとり暮らしの、わたしには。もってこいかも、しれませんよね。

   ちょうど、いいから。つかうことに、しましょうかねえ。おとうさん。

   おかずに、ふたを、してなくても。虫は。入らないしね。

    ここには。アリは、いませんし。

     ねえ。おとうさん。