おとうさん。おはよう。

  マンションの、中庭にある。ユスラウメの木。赤い実が。つきましたよ。

   田舎では、なぜか。「ブイブイ」と、呼んで。

   よく。あの実を、食べてたよねえ。わたしたち。

  田舎では、そう、珍しく、なかったのに。ユスラウメの木。

   こっちでは。あまり。見かけ、ないんだよね。

  だから。ここに、入居した年。

   「おとうさん。珍しいもん、見たよ。」

   「ユスラウメ。あの、ブイブイ。」って。

   ふたりで。子供の頃を、思い出して。もりあがったよねえ。おとうさん。

  「山の畑に、行ったら。」

  「あれを。口いっぱいに。ほおばって、のう。」

  「ばあさは。あれで。ユズラウメ酒を、作っとったわ。」いうてね。

  それから。

   「うちには。スモモの木が、あったんよ。」って。

   わたしが、言うもんだから。

  スモモの、話に。なったんだよね。おとうさん。

   「なんでか。この時期に、なると。みんなで。よう、やったのう。」

   「学校に、行ったら。」

   「あっちでも。こっちでも。」

   「スモモモモモモモモモモ・・・・・いうて。」

   「どこで、切れとるか。いうて。クイズを、したり。」

   「早口で、言うてみい。いうて。」

   「競争したりも。したんや。」ってね。

  あの日は、ひさしぶりに。

   「スモモモモモモモモモモ・・・・」って。

   大声で、ふたりで。やりましたよね。おとうさん。

  きょうは。少しだけ。あの、ユスラウメを。もらってきて。

   思い出ばなしに。はなを、さかせますかねえ、おとうさんと。

   そして。それから、

   「スモモモモモ・・・・」って。やりますかねえ。おとうさん。

  黙って、いないでね。ちゃんと。答えて、くださいよ。おとうさん。

  ひとりで、やっても。

   張り合う相手が、いなくては。さみしいものねえ。おとうさん。

    そうで、しょう。 ねえ、おとうさん。