おとうさん。おはよう。

   暑くなって。どこの、お店でも。大きな、スイカを。売ってるんですよ。

    それも、色とりどりの。色とりどりと、言えば。

    「そりゃ、大げさや。」って。いわれ、そうですが。

   今は。それほど。いろんな、種類が。あるんだもんね。おとうさん。

   「あそこの、家は、ええなあ。黄色い、スイカも。あるんじゃて。」

   「どんな、味が、するんじゃろう。」

   「うちは。児玉スイカ、いうん。植えたんじゃ。」いうて。

    羨ましがったり、自慢したり。

    スイカ、ひとつに、一喜一憂してたんだよね。わたしたちは。

  田舎に、いた時は。『スイカは。畑に、行って。とって、来るもの。』

   そう、思って、ましたよねえ。おとうさん。

   今、売っている。あんな、りっぱな。スイカは。見たこと、なかったけどね。

   自分の、うちの。一番。スイカに、適してる。畑には。

    買った、苗を。二三本、植えて。

     あとの、畑には。去年の。スイカの、種の。苗を。植えてね。

  「一番なり、二番なり。・・・」とか、いってね。

   スイカは。ツルに、なりほうだい。

   お水がわりに。畑で。食べて、いたんだよね。わたしたちは。

   でも。一番なりの、大きな、スイカは。『仏さまの、もの』で。

    お盆ように、とって、おいたんだよね。おとうさん。

  だから。子供の、することと、言えば。『スイカの、種の、飛ばしっこ。』

   スイカの、種を。「プッ、プッ」と。口から、噴き出して。

   遠くまで、飛ばして。競争したんだよね。

  息子たちが、小さかった時。実家の、縁側で。

   「こうやって。種を、なあ。」って。

   庭に、向かって。おとうさんが。「プッ」と、やって。見せたらねえ。

    二人とも、おとうさんの、ように。やりたくてね。

   口の、中に。いっぱい。スイカを、いれるんだけど。

   「いち、にいのう。さん。」いうたら。

   「ゴックン」て。飲み込んで、しまってね。

   「もう、一回、もう、一回。」いうて。

    何度、やっても。『ゴックン』でね。

   お腹の、中は。種で、いっぱいに。なってしまってね。

   「おとうさん。はらの、中で。スイカの、種。どうなるん。」

   「生えて、こんのん。おとうさん。」てね。

   息子たちの、心配を、よそに。あの、スイカの種は。

    生えて、こなかったよねえ。おとうさん。

  スイカと、いえば。どうしても。あの、日のことを。

   思いだして、しまうよねえ。笑って、しまうんだけど。

    ねえ。おとうさん。