「カラン、コロン。カラン、コロン。」

  「カラン、コロン。カラン、コロン。」て。

  いい、音を。響かせて。

  おとうさんは、よく。あの、下駄を。はいて。出かけて、いたよねえ。

   わたしと、結婚したころは。遠出しない、限りは。いつも、下駄でね。

  団地の、中にあった。公設市場に。行く、時なんかも。

   さっそうと。下駄で。行って、いたんだよね。おとうさんは。

  「足は。大事や。」

  「しっかり。踏みしめられる、ように。ならんと、あかん。」

   そう、いって。

  子どもたちには。ゴムゾウリを。買って、あげてね。

   遠出、以外は。それを。はかせて、いたんだよね。おとうさん。

  そういえば。あの、ゲーム。

   子どもたちと、一緒に。よく、やったよねえ。おとうさん。

  「豆が、あったら。持ってきて、くれ。」いうてね。

   台所の、床に。何個か、並べて。

  息子たちを。その前に、置いた。イスに、座らせて。

  「ええか。足の。親指と、人差し指で。あの、豆を。つまんで、みい。」

  「おとんと。どっちが、早いか。競争や。」いうて。

   足の指を、つかって。床の、豆を。拾わせて、いたんだよね。

  「右足が、おわったら。左足じゃ。」

  「ずるしたら、あかんけえ。おかん。よく、見とれ。」いうてね。

   あんな、時に。かぎって。おとなげ、ないんだよね。おとうさんは。

    本気に、なるんだもん。

  「ほら。わしが、一番じゃ。」いうて。

  それから。

  「こうやって。親指となあ。人差し指で、なあ。」って。

  豆の、拾いかたを。得意になって。

   息子たちに。説明して、いたんだよね。おとうさんは。

  あの、下駄。まだ、下駄箱に。大事に、しまって。あるんだよ。おとうさん。

   何かの時に。息子が。浴衣を、着た時は。

   きっと。役に、たつと。思うんだよね。おとうさん。

  もちろん。おとうさんが、教えた。足の指の、訓練も。

   しっかり。役に、たつと。思いますよ。

    ねえ。おとうさん。