おとうさん。おはよう。

   部屋中、いい、香りだよね。

  たった、一本の、カサブランカなのに。こんなに、香るんだよね。

   大きな、真っ白な、花を。三輪も、さかせてね。

   もう、じゅうぶんに。楽しませて、くれているのに。

   もう、一輪。ツボミも。あるんですよ。いい、買い物でしたよ。おとうさん。

  ユリと、いえば。ねえ、おようさん。

  田舎で。釣りに。出かけた、時なんか。山道を、通ると。

   かならず、見かける。ユリが。あったよねえ。おとうさん。

  「わたしが。おとうさん。あれは、『テッポウユリ』やで。いうたら。」

  「ちがう。あれは、『タカサゴユリ』じゃ。」

  「よう、似とるけど。ちがうんじゃ。」

  「わしらが、帰って、くるのは。毎年、盆前じゃ。」

  「この時期に。咲くんは。タカサゴユリじゃ。」

  「テッポウユリの、時期は。すんどる。」

  「うちの、おやじ。農協に、行っとったじゃろ。」

  「ほじゃけえ。よう、言うとったわ。」

  「正月に。『ゆり根』いうて。おまえらが。食うとんは。」

  「あの。『テッポウユリ』の、球根やで。」いうてね。

   いろいろ。教えて、くれたこと。あったよね。おとうさん。

   見た目は。どこが、違うんよって。

    いいたく、なるほど、似てるんだけど。

    ちがうんだよねえ。『テッポウユリ』と、『タカサゴユリ』はね。

  今は。お盆と、いえども。色んな、花が。手に入るん、だけど。

   むかしは、ねえ。おとうさん。

   暑い。八月の、さなかに。

   『仏さんに、花が、ないなあ。」そう、思ったら。

   「山に、いって。ユリ、とってこい。」いわれてね。

  地生している。

   あの、『タカサゴユリ』に。随分、助けられた、ものだよね。おとうさん。

  カサブランカの、ように。香りたかく。おおきな、花では。ないけれど。

   わたしたちが、ユリと、言って。思い浮かぶのは。

   やっぱり。山の、中で。風に、ふかれながら。咲いている。

    子供の、ときから。親しみのある。タカサゴユリだよね。

     ねえ。おとうさん。