あの。病院の。坂道に、続く。並木道。
わたしが。こっちに、きた頃は。わたしの、背丈ぐらいでね。
日陰にも、ならない。ぐらいの、木だったのに。
それが、あんな、巨木に、なって。
りっぱに、木陰を。つくって、くれるように。なってね。
病院まで、行くとき。あそこを。通る時、だけは。ほっと、するんだよね。
夏の、暑い日なんか。あの、木陰に。なんど。助けられた、ことやら。
それなのに、ねえ。名前も。知らな、かったんだよ。いままで。
こないだ。名札が。つけて、あってね。
「なんの、木だっけ。」って。みたら。
「カツラ」って。書いて、あるんですよ。
急に、親しみが。わいて、きましたよ。おとうさん。
あの。メロドラマの、木だってね。
『花も、あらしも。ふみこえて。・・・・』ってね。
そういえば。おとうさん。
「うちなあ。むかし。民宿やってたこと、あったやろ。」
「お客さんが。碁が、したい。いうてな。」
「碁の、セットを。こうたんじゃ。」
「おやじが。買うたんが。この、碁盤じゃ。」
いうて。見せて、くれたこと。あったよねえ。おとうさん。
「それ。なんの木で、できとん。」いうたら。
「この、碁盤か。これは。カツラの木で。できとんじゃ。」って。
たしか。いってたと。思うん、だけどね。おとうさん。
その時
「かつらの、葉っぱは、なあ。」
「粉にして。香の、材料にも。なるんじゃ。」いうて。
教えて、くれたよねえ。おとうさん。
今年は。あの、葉っぱ。拾ってきて。粉にしてね。
お香づくりに。挑戦して、みようかなあ。おとうさん。
ドラマの、ようには。いかないけれど。
せめて。カツラの。香りに、のって。
わたしの、思いが。
おとうさんの、所まで。届きます、ようにってね。
二人で。あの、道を。散歩した、日のことを。思い、出しながら。
お香を、たくのも、いいでしょう。
ねえ。おとうさん。