おとうさん。おはよう。

  きょうの、朝は。浅漬けの、ナスを。パクつきながら。

   タマゴサンドを、作ってますよ。

  ひとりに、なって。野菜の、余りものが、でると。

   ついつい、浅漬けに、してしまいますよ。

   「味は。」と、問われると。「まあ、まあ。ですよ。」

   でも、種類だけは。たくさん。なんでも。漬けるん、だものね。

  おとうさんに。味見して、もらったら。

   「いまひとつじゃ、のう。」ですかねえ。

  子どもの頃は。季節の物を、その季節に。だったから。

   路地物の、キュウリや、ナスは。まだまだ、先のこと。

    これと言って。漬ける物も、ないので。

   家に、あるのは。『たくわん』だけ、だったんだよね。

  それも。一年、もたすために。しっかり。塩が。きいて、いるんだよね。

   大きな、樽に、漬け込んでね。

  田舎の、母が、元気だったころは。大量に、送って、くれていてね。

   おとうさん。喜んで、いたよねえ。

  「千切りにして。塩抜き、するんじゃ。」

  「塩を。抜き過ぎたら、あかん。」

  「味が、のうなるけえ。」

  「かとう、しぼって。」

  「醤油に、イリゴマ。かけるんじゃ。」

  「これが、いちばんじゃ。」いうてね。

  田舎から。送って、もらえなくなって。

  何度か。あの、味に。挑戦したこと、あったよねえ。おとうさん。

   でも。無理、なんだよねえ。

  あの、味は。田舎の。あの。タクワンで、なかったら。

   だせない、味なんだよねえ。

   塩からい、いうても。ただ。塩が、多いだけじゃあ。ないんだものね。

    ちゃんと。漬け込んで、あるからこそ。できること、なんだものね。

  漬け込んだ、とうしょは。そんなに、塩からくなくても。

   だんだん。塩気の、増してくる。タクワンを。

   おいしく、食べるために。

  ひと手間も。ふた手間も、かけたからこそ。でる、味なんだものね。

  時々。千切りたくわんに。ゴマ醤油を、かけて。あげるとね。

   息子たち、いうんだよ。

   「ばあちゃんの、タクワン、食べたいねえ。」って。

   あれこそ。『ばあちゃんの、味』だよね。

    わたしには、まねのできない。田舎の。母の、味だよね。

     ねえ。おとうさん。