ベランダに、出ると。さわやかなこと。

   ここちよい、風が。ふいてますよ。おとうさん。

  風に、さそわれて。子どもの頃を、思い出して。

   かざぐるまを、作って。みましたよ。折り紙でね。

  わたしたちの、子供の頃は。夜店で。よく、売ってたよねえ。おとうさん。

   たしか。プラスチック製の、ようなもの、だったけど。

  あんな。いいのじゃ、ないけれど。

   おとうさん。息子たちを。喜ばせようと、思ってね。

   かざぐるまを。作って、あげたこと。あったよねえ。

   小学校の、運動場にいって。まわしっこ、しようって。

  「ええか。色塗りは。おまえらの、やくじゃ。」

  「まて。いうとるじゃろう。」

  「切るのは、この角から。真ん中までじゃ。」

  「ああ、あ。いうとるじゃろ。」

  「そこまで、切ったら、あかん。いうて。」

  「紙が。半分に、なって。しもうたわ。」

  「もう、いっかい。作り、なおしじゃ。」いうてね。

   二度、三度と。作りなおしてね。

  やっと、できあがったのを、もって。

  「ほら、いくぞ。」いうてね。

   かざぐるまの。まわしっこ、したんだよね。小学校の、運動場で。

  「こうやって。風に、向こうて。たつんじゃ。」いうたら。

   反対に。風を、背にして。立つし。

  「かざぐるまを。もって、走れ。」いうたら。

   かざぐるまに、気をとられて。転んで、しまうしね。

  あの時は。まだ、小さかったから。大変、だったよねえ。おとうさん。

  けっきょく。

  「こうやって、なあ。」

  「フー。フー。って。息を、ふきかけ、みい。」って。

   おとうさんに、いわれても。それすら、できなくてね。

  おとうさんが、二人の、かざぐるまに。

  「フー、フー。」「フー、フー。」って、してね。

  ちょっと、まわってる、だけなのに。

  「よう、まわるなあ。おとうさん。」

  「よう、まわっとるで。兄ちゃん。」て。

  二人で、大喜びして。くれたん、だよね。

  かざぐるまの。まわしっこ、競争には。ほど遠かったけど。

   あれは、あれで。いま、思い出しても。楽しい。

    いい、思い出だよね。

    ねえ。おとうさん。